『鳥飼否宇「生徒会書記はときどき饒舌」
第11話 盗んだのは誰?(前編)』
6月末の土曜日の朝、S中生徒会のメンバーは今日も星野達男の田んぼに集合していた。
一年で最も昼間が長い時期なので、集合時間は6時30分とかなり早かった。
しかし、その時間に間に合ったのは、星野達男のほかは、生徒会長の岡村さくらと庶務の北原翔、書記の大場心美、それに生物部長の黒瀬千紘だけだった。
「集合時間が早すぎたかな」達男が笑った。
「年寄りは朝が早いからこの時間でも気にならないが、育ち盛りの中学生に早起きはきつかったかもしれないな。虎太郎もまだ来ていないし」
星野虎太郎は達男の孫で、さくらたち生徒会メンバーの一つ下の2年生だった。
「でも、朝早いと気持ちいいよね。ほら、鳥たちはもう活動をはじめてるし」
千紘が周囲を見渡した。
田んぼには白いサギの姿があり、上空ではツバメがエサを探して飛びまわっていた。
近くの電線ではカラスがのんびり鳴いていた。
去年まで生物部は千紘一人しかいなかったが、今年は一年生がいきなり5人も入り、千紘は部長として張り切っていた。
「黒瀬さんの言うように、朝は気持ちいいね。早起きは三文の徳っていうし」
大きな目を輝かせながらさくらが深呼吸する。その横で翔はあくびをかみ殺した。
「ぜったい早すぎるって。朝ごはんもろくに食べてこなかったんで、今食べてもいいかな。まだ全員そろってないからいいよね」
翔はデイパックのファスナーを開けて大きなおにぎりを取り出すと、そのままおいしそうに食べはじめた。
さくらがデイパックのなかをのぞく。
「食べ物たくさん持ってきたんだね。ポテチにチョコに......桃まで入ってる。チョコもらい!」
さくらがチョコを取り出した。
「おい、勝手に人のチョコを取るなよ」
おにぎりをほおばりながら翔が手を伸ばす。
「たくさん入ってるんだし一個くらいくれたっていいじゃん。ねえ、黒瀬さんも食べたいでしょ?」
「私はいらない。朝ごはんちゃんと食べてきたし、今、ダイエット中なんだ。最近ちょっと太ってきてるから、昼ごはんまではカロリーとらないようにしなきゃ」
千紘の賛同が得られず、さくらはチョコを翔のデイパックに戻した。
「しかたないから返すか。でも今日は暑くなりそうだから、荷物は木陰に置いといたほうがいいよ。熱がこもるとチョコなんて溶けちゃうよ、きっと」
「ああ、そうする」
ぺろりとおにぎりを平らげた翔は、デイパックを木陰に運んだ。
中学生たちのやりとりを達男が目を細めて見ていた。
「北原くんも桃を持ってきたのか。実は私も裏の農園で桃を作ってるんだ。だから、みんなの分も持ってきたぞ。うちのは有機栽培なので見た目はよくないかもしれないが、味は保証する。今のうちから冷やしておいたほうがいいな」
達男はそう言うと、軽トラックのほうへ歩いていく。
「えっ、かぶっちゃったんですか。でもおれ、桃好物なんで何個でも食べられます。手伝いましょう」
翔が達男のトラックのほうへ走っていく。そこへ、生徒会副会長の佐野悠馬と会計の浜松大雅、2年生の星野虎太郎が連れ立ってやってきた。悠馬がスマホで時間を確認した。
「やべっ、10分遅刻か。遅くなってごめん」
悠馬が顔の前で手を合わせた。
「えっ、翔がもう来てるの。あいつに先を越されるとは......」
翔が10メートルほど離れた軽トラックのところから手を振りながら叫んだ。
「みんな、遅いぞ! おい、男どもはこっちに来て、手を貸してくれよ!」
その声にうながされ、遅れてきた三人がトラック目指して走っていった。
やがて男子生徒たちが氷水を張ったタライを運んできた。
達男は両手にトートバッグをさげていた。
タライが木陰に置かれると、達男はトートバッグに入っていた桃を氷水にあけた。
もう一方のバッグには飲み物の缶やペットボトルが入っていた。
それも氷水のなかに投入した。
「こうしておけば、休けい時間までには桃もドリンクも冷えているだろう。全員そろったようなので、でははじめるとするか。じゃあ、みんなこっちに集合してくれるかな......おやっ?」
達男が遠くへ目をやった。それにつられて、一同が振り返る。視線の先にはひとりの男子生徒の姿があった。
「えっ。小清水?」
悠馬がつぶやいた。
小清水亮は学校をさぼったり、暴力ざたを起こしたりするS中の問題児と恐れられていた。
しかし、高校生とけんかをしたのはからまれていた女の子を助けるためであったことがわかり、また、中庭の池でなにか悪さをしていると思ったら、実は外来種のカダヤシを駆除しようとしていたことが判明し、生徒会メンバーのなかでは評価が変わりつつあった。
その小清水が一同に合流した。
「おう。遅れて悪かったな」
「小清水くんも手伝ってくれるの?」
さくらが半信半疑で聞いた。
「大場から今日農作業やるって聞いたからな。少なくとも、非力なこいつよりは、おれのほうが役立つだろう」
名前を出された大場心美が顔を真っ赤にしてうつむいた。
星野達男がもう一度しきりなおしをした。
「人手は多いにこしたことはない。今日はこれから草取りだ。この田んぼは無農薬で米作りをしているので、草がすごい勢いで生えてくる。めんどうでもそれを1本1本手で抜いてやらねばならない。もう6月末なので気温が高い。だからなるべく涼しい時間にやろうと思って、朝早くに集まってもらった。早起きは大変だったと思うが、許してくれ。あんまりがんばりすぎると熱中症が怖いので、適当に休みながらやろう。飲み物も冷えてるから、こまめに水分も補給するように。では、まずは1時間やってみようか。よろしく!」
達男のかけ声で、メンバーは思い思いの場所に散り、草をむしりはじめた。さくらは虎太郎と千紘と一緒に作業を開始した。
最初はみんな無言で草取りに精を出していたが、しばらくやっているうちに疲れが出てきて、次第に手を動かす時間より口を動かす時間のほうが長くなってきた。
「おじいちゃんは有機農業にこだわってるんだ」
虎太郎が言うと、さくらが反応した。
「桃も有機栽培してるって、さっき聞いたわ。農薬を使わなければ地球にはやさしいけど、こんなふうに手間がかかってしまうのが難しいところよね。農家の人って、年をとられた人が多いじゃない。手間のかかる仕事が増えると、農家の人にとっては大変だよね」
「農薬を使えば草取りの手間も省けるし、害虫も駆除できるけど、それはどうなんだろうと思う。逆に虫も食べないような野菜や果物を食べるのって、怖い気がするんだけど」
千紘が生物部らしい発言をした。するとさくらが反論した。
「それはわかる。でも、生産性をあげるためにはある程度しかたない面もあるんじゃないかしら。もちろん使いすぎはいけないと思うけど」
「安全性と生産性のどちらを優先するべきか」虎太郎がまじめな意見を口にした。「両方のバランスをどうとるのか難しいって、よくおじいちゃんも嘆いています」
「虎太郎くん、すごくおとなびたことを言うなと思ったらおじいさんの受け売りか」
さくらが笑ったとき、少し離れたところから悠馬の声がした。
「わっ、ヘビだ!」
「えっ、ホント!」千紘がうれしそうに叫んだ。「見せて、見せて!」
千紘は悠馬のいるほうに向かって猛ダッシュした。
「シマヘビだね。そんなに怖がらなくていいよ、毒なんてないんだから」
少し遅れて虎太郎とさくらが到着したときには、千紘は1メートルくらいのヘビを手づかみしていた。
「ひえー、女だてらにヘビなんか捕まえんなよ」
悠馬の横にいた翔がしりこみする。
「女だてらにってのは、差別発言だぞ」
千紘が翔をにらんだ。
「それにしてもヘビがいるってことは、そのエサとなるカエルやネズミが豊富ってことでしょ。そして、カエルが豊富ってことは、エサとなる虫がたくさんいるってこと。つまり、無農薬ですごしやすい環境だから、ここではいろんな生き物が暮らしているわけね」
そのとき騒ぎを聞いて駆けつけてきた大雅が、空を指差した。
「なんか鳥が飛んでいますね。トビですか?」
「いや、違います」
バードウォッチャーの虎太郎が即答した。
「あれはトビじゃなくて、サシバというタカです!」
千紘がヘビをつかんだまま空を見上げる。
「すごい、生のサシバ見たの、初めて。感動しちゃう!」
大雅がいつのまにかスマホで検索していた。
「サシバというタカは日本や朝鮮半島で繁殖し、南西諸島や台湾、フィリピンなどで越冬するそうです。
里山にすみ、主にヘビやトカゲ、カエルを食べる、と。おや、絶滅危惧種なんですね」
「そう。日本中で里山が減っているから、サシバも数が減っているの。でも、まだ渡りの時期ではないので、今ここにいるってことは、この近くで繫殖している可能性が高い。絶滅危惧種のサシバが繁殖しているって、スゴいことよ!」
千紘の感動は、虎太郎にも伝染していた。
「カエルやヘビが暮らしていける場所だから、サシバのような生態系のトップにいる動物も命をつないでいけるんですね。くそ、写真撮りたかったなあ」
いつのまにか心美と亮も集まっていた。亮が千紘の手元に目をやった。
「おい、黒瀬、なんでヘビなんか持ってんだ? もしかして今夜のおかず?」
「あ、サシバに見とれていて、逃がすのを忘れてた。ごめんね、シマヘビちゃん、たくましく生きておくれ」
千紘はヘビを地面に放つと、亮と向き合った。
「あのねえ、ヘビなんか食べるわけないでしょ!」
みんなが笑ったとき、軽トラックのところにいた星野達男が大声で叫んだ。
「そろそろ1時間だから、休けいにしよう! みんな、木陰に集合!」
一同、ぞろぞろと木陰に戻る。
「のどが乾いただろう。お茶も炭酸飲料もあるから、じゃんじゃん飲んでくれ。食べたければ、桃も食べていいぞ」
達男の声は、翔の叫び声にさえぎられた。
「ない! ない、ない、ない!」
翔はデイパックのなかをかき回していた。
「北原くん、どうしたの?」
さくらが不思議そうに聞いた。
「おれの桃がなくなった。誰がとったんだよ?」
一年で最も昼間が長い時期なので、集合時間は6時30分とかなり早かった。
しかし、その時間に間に合ったのは、星野達男のほかは、生徒会長の岡村さくらと庶務の北原翔、書記の大場心美、それに生物部長の黒瀬千紘だけだった。
「集合時間が早すぎたかな」達男が笑った。
「年寄りは朝が早いからこの時間でも気にならないが、育ち盛りの中学生に早起きはきつかったかもしれないな。虎太郎もまだ来ていないし」
星野虎太郎は達男の孫で、さくらたち生徒会メンバーの一つ下の2年生だった。
「でも、朝早いと気持ちいいよね。ほら、鳥たちはもう活動をはじめてるし」
千紘が周囲を見渡した。
田んぼには白いサギの姿があり、上空ではツバメがエサを探して飛びまわっていた。
近くの電線ではカラスがのんびり鳴いていた。
去年まで生物部は千紘一人しかいなかったが、今年は一年生がいきなり5人も入り、千紘は部長として張り切っていた。
「黒瀬さんの言うように、朝は気持ちいいね。早起きは三文の徳っていうし」
大きな目を輝かせながらさくらが深呼吸する。その横で翔はあくびをかみ殺した。
「ぜったい早すぎるって。朝ごはんもろくに食べてこなかったんで、今食べてもいいかな。まだ全員そろってないからいいよね」
翔はデイパックのファスナーを開けて大きなおにぎりを取り出すと、そのままおいしそうに食べはじめた。
さくらがデイパックのなかをのぞく。
「食べ物たくさん持ってきたんだね。ポテチにチョコに......桃まで入ってる。チョコもらい!」
さくらがチョコを取り出した。
「おい、勝手に人のチョコを取るなよ」
おにぎりをほおばりながら翔が手を伸ばす。
「たくさん入ってるんだし一個くらいくれたっていいじゃん。ねえ、黒瀬さんも食べたいでしょ?」
「私はいらない。朝ごはんちゃんと食べてきたし、今、ダイエット中なんだ。最近ちょっと太ってきてるから、昼ごはんまではカロリーとらないようにしなきゃ」
千紘の賛同が得られず、さくらはチョコを翔のデイパックに戻した。
「しかたないから返すか。でも今日は暑くなりそうだから、荷物は木陰に置いといたほうがいいよ。熱がこもるとチョコなんて溶けちゃうよ、きっと」
「ああ、そうする」
ぺろりとおにぎりを平らげた翔は、デイパックを木陰に運んだ。
中学生たちのやりとりを達男が目を細めて見ていた。
「北原くんも桃を持ってきたのか。実は私も裏の農園で桃を作ってるんだ。だから、みんなの分も持ってきたぞ。うちのは有機栽培なので見た目はよくないかもしれないが、味は保証する。今のうちから冷やしておいたほうがいいな」
達男はそう言うと、軽トラックのほうへ歩いていく。
「えっ、かぶっちゃったんですか。でもおれ、桃好物なんで何個でも食べられます。手伝いましょう」
翔が達男のトラックのほうへ走っていく。そこへ、生徒会副会長の佐野悠馬と会計の浜松大雅、2年生の星野虎太郎が連れ立ってやってきた。悠馬がスマホで時間を確認した。
「やべっ、10分遅刻か。遅くなってごめん」
悠馬が顔の前で手を合わせた。
「えっ、翔がもう来てるの。あいつに先を越されるとは......」
翔が10メートルほど離れた軽トラックのところから手を振りながら叫んだ。
「みんな、遅いぞ! おい、男どもはこっちに来て、手を貸してくれよ!」
その声にうながされ、遅れてきた三人がトラック目指して走っていった。
やがて男子生徒たちが氷水を張ったタライを運んできた。
達男は両手にトートバッグをさげていた。
タライが木陰に置かれると、達男はトートバッグに入っていた桃を氷水にあけた。
もう一方のバッグには飲み物の缶やペットボトルが入っていた。
それも氷水のなかに投入した。
「こうしておけば、休けい時間までには桃もドリンクも冷えているだろう。全員そろったようなので、でははじめるとするか。じゃあ、みんなこっちに集合してくれるかな......おやっ?」
達男が遠くへ目をやった。それにつられて、一同が振り返る。視線の先にはひとりの男子生徒の姿があった。
「えっ。小清水?」
悠馬がつぶやいた。
小清水亮は学校をさぼったり、暴力ざたを起こしたりするS中の問題児と恐れられていた。
しかし、高校生とけんかをしたのはからまれていた女の子を助けるためであったことがわかり、また、中庭の池でなにか悪さをしていると思ったら、実は外来種のカダヤシを駆除しようとしていたことが判明し、生徒会メンバーのなかでは評価が変わりつつあった。
その小清水が一同に合流した。
「おう。遅れて悪かったな」
「小清水くんも手伝ってくれるの?」
さくらが半信半疑で聞いた。
「大場から今日農作業やるって聞いたからな。少なくとも、非力なこいつよりは、おれのほうが役立つだろう」
名前を出された大場心美が顔を真っ赤にしてうつむいた。
星野達男がもう一度しきりなおしをした。
「人手は多いにこしたことはない。今日はこれから草取りだ。この田んぼは無農薬で米作りをしているので、草がすごい勢いで生えてくる。めんどうでもそれを1本1本手で抜いてやらねばならない。もう6月末なので気温が高い。だからなるべく涼しい時間にやろうと思って、朝早くに集まってもらった。早起きは大変だったと思うが、許してくれ。あんまりがんばりすぎると熱中症が怖いので、適当に休みながらやろう。飲み物も冷えてるから、こまめに水分も補給するように。では、まずは1時間やってみようか。よろしく!」
達男のかけ声で、メンバーは思い思いの場所に散り、草をむしりはじめた。さくらは虎太郎と千紘と一緒に作業を開始した。
最初はみんな無言で草取りに精を出していたが、しばらくやっているうちに疲れが出てきて、次第に手を動かす時間より口を動かす時間のほうが長くなってきた。
「おじいちゃんは有機農業にこだわってるんだ」
虎太郎が言うと、さくらが反応した。
「桃も有機栽培してるって、さっき聞いたわ。農薬を使わなければ地球にはやさしいけど、こんなふうに手間がかかってしまうのが難しいところよね。農家の人って、年をとられた人が多いじゃない。手間のかかる仕事が増えると、農家の人にとっては大変だよね」
「農薬を使えば草取りの手間も省けるし、害虫も駆除できるけど、それはどうなんだろうと思う。逆に虫も食べないような野菜や果物を食べるのって、怖い気がするんだけど」
千紘が生物部らしい発言をした。するとさくらが反論した。
「それはわかる。でも、生産性をあげるためにはある程度しかたない面もあるんじゃないかしら。もちろん使いすぎはいけないと思うけど」
「安全性と生産性のどちらを優先するべきか」虎太郎がまじめな意見を口にした。「両方のバランスをどうとるのか難しいって、よくおじいちゃんも嘆いています」
「虎太郎くん、すごくおとなびたことを言うなと思ったらおじいさんの受け売りか」
さくらが笑ったとき、少し離れたところから悠馬の声がした。
「わっ、ヘビだ!」
「えっ、ホント!」千紘がうれしそうに叫んだ。「見せて、見せて!」
千紘は悠馬のいるほうに向かって猛ダッシュした。
「シマヘビだね。そんなに怖がらなくていいよ、毒なんてないんだから」
少し遅れて虎太郎とさくらが到着したときには、千紘は1メートルくらいのヘビを手づかみしていた。
「ひえー、女だてらにヘビなんか捕まえんなよ」
悠馬の横にいた翔がしりこみする。
「女だてらにってのは、差別発言だぞ」
千紘が翔をにらんだ。
「それにしてもヘビがいるってことは、そのエサとなるカエルやネズミが豊富ってことでしょ。そして、カエルが豊富ってことは、エサとなる虫がたくさんいるってこと。つまり、無農薬ですごしやすい環境だから、ここではいろんな生き物が暮らしているわけね」
そのとき騒ぎを聞いて駆けつけてきた大雅が、空を指差した。
「なんか鳥が飛んでいますね。トビですか?」
「いや、違います」
バードウォッチャーの虎太郎が即答した。
「あれはトビじゃなくて、サシバというタカです!」
千紘がヘビをつかんだまま空を見上げる。
「すごい、生のサシバ見たの、初めて。感動しちゃう!」
大雅がいつのまにかスマホで検索していた。
「サシバというタカは日本や朝鮮半島で繁殖し、南西諸島や台湾、フィリピンなどで越冬するそうです。
里山にすみ、主にヘビやトカゲ、カエルを食べる、と。おや、絶滅危惧種なんですね」
「そう。日本中で里山が減っているから、サシバも数が減っているの。でも、まだ渡りの時期ではないので、今ここにいるってことは、この近くで繫殖している可能性が高い。絶滅危惧種のサシバが繁殖しているって、スゴいことよ!」
千紘の感動は、虎太郎にも伝染していた。
「カエルやヘビが暮らしていける場所だから、サシバのような生態系のトップにいる動物も命をつないでいけるんですね。くそ、写真撮りたかったなあ」
※ある場所における生物の食う食われる関係、つまり食物連鎖を構成する栄養段階ごとの生物の量を積み上げたものを生物体量ピラミッドとも呼ぶ。
いつのまにか心美と亮も集まっていた。亮が千紘の手元に目をやった。
「おい、黒瀬、なんでヘビなんか持ってんだ? もしかして今夜のおかず?」
「あ、サシバに見とれていて、逃がすのを忘れてた。ごめんね、シマヘビちゃん、たくましく生きておくれ」
千紘はヘビを地面に放つと、亮と向き合った。
「あのねえ、ヘビなんか食べるわけないでしょ!」
みんなが笑ったとき、軽トラックのところにいた星野達男が大声で叫んだ。
「そろそろ1時間だから、休けいにしよう! みんな、木陰に集合!」
一同、ぞろぞろと木陰に戻る。
「のどが乾いただろう。お茶も炭酸飲料もあるから、じゃんじゃん飲んでくれ。食べたければ、桃も食べていいぞ」
達男の声は、翔の叫び声にさえぎられた。
「ない! ない、ない、ない!」
翔はデイパックのなかをかき回していた。
「北原くん、どうしたの?」
さくらが不思議そうに聞いた。
「おれの桃がなくなった。誰がとったんだよ?」
マンガ イラスト©中山ゆき/コルク
■著者紹介■
鳥飼 否宇(とりかい ひう)
福岡県生まれ。九州大学理学部生物学科卒業。編集者を経て、ミステリー作家に。2000年4月から奄美大島に在住。特定非営利活動法人奄美野鳥の会副会長。
2001年 - 『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞。
2007年 - 『樹霊』で第7回本格ミステリ大賞候補。
2009年 - 『官能的』で第2回世界バカミス☆アワード受賞。
2009年 - 『官能的』で第62回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補。
2011年 - 「天の狗」(『物の怪』に収録)で第64日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
2016年 - 『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
■監修■
株式会社シンク・ネイチャー
代表 久保田康裕(株式会社シンクネイチャー代表・琉球大学理学部教授)
熊本県生まれ。北海道大学農学部卒業。世界中の森林生態系を巡る長期フィールドワークと、ビッグデータやAIを活用したデータサイエンスを統合し、生物多様性の保全科学を推進する。
2014年 日本生態学会大島賞受賞、2019年 The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Award受賞。日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)やネイチャーリスク・アラート(https://thinknature-japan.com/habitat-alert)をリリースし反響を呼ぶ。
さらに、進化生態学研究者チームで株式会社シンクネイチャーを起業し、未来社会のネイチャートランスフォーメーションをゴールにしたNafureX構想を打ち立てている。
鳥飼 否宇(とりかい ひう)
福岡県生まれ。九州大学理学部生物学科卒業。編集者を経て、ミステリー作家に。2000年4月から奄美大島に在住。特定非営利活動法人奄美野鳥の会副会長。
2001年 - 『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞。
2007年 - 『樹霊』で第7回本格ミステリ大賞候補。
2009年 - 『官能的』で第2回世界バカミス☆アワード受賞。
2009年 - 『官能的』で第62回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補。
2011年 - 「天の狗」(『物の怪』に収録)で第64日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
2016年 - 『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
■監修■
株式会社シンク・ネイチャー
代表 久保田康裕(株式会社シンクネイチャー代表・琉球大学理学部教授)
熊本県生まれ。北海道大学農学部卒業。世界中の森林生態系を巡る長期フィールドワークと、ビッグデータやAIを活用したデータサイエンスを統合し、生物多様性の保全科学を推進する。
2014年 日本生態学会大島賞受賞、2019年 The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Award受賞。日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)やネイチャーリスク・アラート(https://thinknature-japan.com/habitat-alert)をリリースし反響を呼ぶ。
さらに、進化生態学研究者チームで株式会社シンクネイチャーを起業し、未来社会のネイチャートランスフォーメーションをゴールにしたNafureX構想を打ち立てている。
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