『鳥飼否宇「生徒会書記はときどき饒舌」
第7話 ジュゴンのなみだ(前編)』
2月初旬の月曜に放課後、S中生徒会のメンバーは生徒会室に集まっていた。といっても、話し合いのためではない。学期末テストまであと一週間となり、みんな生徒会室を自習室の代わりにしてテスト勉強に励(はげ)んでいたのである。
すると生徒会室のドアが開いた。顔を上げた生徒会長の岡村さくらは、ドア口にクラスメイトが立っているのに気がついた。
「あら、松山さんじゃない、どうしたの? お母さんが迎えに来られなくなったの?」
松山朱音(あかね)はいわゆるお嬢さんで、いつも母親が車で送り迎えをしていた。
「あまりに静かなので、どなたもいらっしゃらないかと思いましたわ」朱音が生徒会室に足を踏(ふ)み入れた。「今日うかがったのは、皆さまにご報告したいことがあったからです」
「報告?」
副会長の佐野悠馬がきょとんとした顔で聞き返すと、朱音はにっこり微笑(ほほえ)んでうなずいた。
「わたくし、また沖縄に行ってまいりましたの」
松山家は大の沖縄好きで、年に数回は家族で沖縄のリゾートホテルに滞在し、休暇(きゅうか)を楽しんでいるのだった。
「冬休みでも春休みでもないこんな時期に?」
呆(あき)れた様子の庶務の北原翔に、朱音は心外そうな顔をしてみせた。
「どうしても行かねばならない用事があったものですから、おとといの土曜の朝に出発して、昨日の日曜の夜に帰ってきました。せっかく沖縄まで行ったのに、1泊しかできなくて残念でした」
会計の浜松大雅がなにか思いついたらしく、手を打った。
「わかった気がします。松山さんは沖縄で親しくなったボーイフレンドに会いにいったのではないですか?」
「そっか、なるほどね!」さくらがうなずく。
朱音は中一の夏休みに行った沖縄旅行で現地の男の子と親しくなり、桜の時期にまた会おうという約束をしていた。しかし、春休みに再度沖縄を訪れても、目当ての男子とは会えず失望していた。
その話を聞いた書記の大場心美が、沖縄のカンヒザクラが咲くのは1月下旬から2月上旬なので、春休みに会いにいったのが間違いだったのではないかと指摘したのだ。
ノートに計算式を記入していた心美が勢いよく顔を上げると、かけていた眼鏡が大きく揺れた。
「それで、会えましたか?」
「大場さんありがとう。あなたの名推理のおかげで清志(きよし)くんと会うことができました」
「清志くん?」
「比嘉(ひが)清志っていうんです」
朱音が思いを寄せている男子の名前がようやくわかり、さくらが大きな目を輝かせた。
「その比嘉くんって子、見てみたいな」
「写真ならありますわ」朱音がスマホを取り出し、画面に1枚の写真を表示した。「この男の子です」
一同、画面をのぞきこむ。サッカーウェアを着た健康的な印象の少年が、桜をバックに写っていた。照れたような笑みを浮かべ、日に焼けた顔から白い歯がこぼれている。
「かっこよくて、すてき!」さくらが胸の前で手を組んだ。「この子が朱音のボーイフレンドってわけね」
「いや、そういうわけでは......」
朱音が顔を赤らめてうつむくと、比嘉清志の背後に女子中学生が小さく写っていることを悠馬が指摘(してき)した。
「おっ、この子、かわいいじゃん。誰(だれ)?」
「清志くんのクラスメイトで、仲間ナミさん」
そう答える朱音の声が少し暗くなったのを、翔は聞き逃さなかった。
「ははあ、彼女、比嘉くんのガールフレンドなんだろう。わざわざ沖縄まで会いにいったのに、松山さん、振られちゃったんだ。お気の毒、お気の毒」
さくらが翔をにらみつけ、机の下でけりを入れた。突然すねをけられて顔をゆがめた翔にあっかんべーをして、さくらは朱音に向き合った。
「沖縄では比嘉くんと一緒になにをしたの?」
「一緒にクジラを見ましたわ」
「えっ、クジラ?」反応したのは大雅だった。「もしかしてホエールウォッチングですか?」
「そう。清志くんのお父さんがマリンガイドをなさっていて、夏はダイビングとかシュノーケリングを、冬はホエールウォッチングをおもにやられているんです。だから船に乗せてもらって、クジラを見にいきました」
大雅がすばやくタブレットを操作し、画面にクジラの動画を表示した。大きなクジラが海面から上体を持ちあげ、背中から豪快(ごうかい)に落ちると、はでに水しぶきがあがった。
「冬の時期に沖縄周辺にいるのは、このザトウクジラですね。本物が見られたのですか。うらやましいです」
「浜松くんの言うように、ザトウクジラは夏の間はオホーツク海など北のほうにいて、冬になると暖かい南の海に移動して、出産や子育てをするそうです。わたくしもクジラの親子にあうことができました」
「クジラかあ、私もあってみたいなあ。でも、こんな大きな動物が暮らしていけるんだから、南の海は魚などがたくさんいるってことよね」
さくらの言葉に、朱音がうなずいた。
「清志くんのお父さんもおっしゃってましたわ。ホエールウォッチングができるのは、豊かな海がクジラを育てているからだって」
「夏は夏で、美しいサンゴ礁(しょう)に集まる色とりどりの魚たちを見ようと、全国からダイバーたちが集まる。沖縄のマリンガイドという職業は、豊かな海がなければ成り立ちませんね」
大雅が眼鏡に片手を添えて言うと、朱音が同意した。
「そうですの。でも、豊かな海を象徴するある動物が現在、危機的な状態にあって心配だともおっしゃってました」
「豊かな海を代表するある動物......なんですか、それは?」
S中の秀才と評判の大雅も答えがわからなかったが、横から心美がぽつんと言った。
「ジュゴンかな?」
「さすが大場さん! よくわかりましたわね」
朱音からおおげさにほめられて、心美は頬を真っ赤に染めてうつむいた。悠馬が会話に割って入った。
「ジュゴンって、人魚のモデルとか言われている動物だろ? どうして減っているの?」
「昔は人間がたくさん捕まえていたそうです。それで数が激減したって聞きました。年間に30頭以上捕まえられた年もあるそうです。あと、ジュゴンが食べるエサも少なくなったそうです」
「ジュゴンも魚を食べるの?」
「あら、どうだったかしら」
首をかしげる朱音に代わって、大雅が名誉挽回(めいよばんかい)とばかりに答えた。
「ジュゴンは草食動物ですから、食べるのはカイソウです。カイソウといっても、コンブやワカメのような海の藻(も)と書く海藻(かいそう)ではなく、海の草(くさ)と書く海草(かいそう)のほう。浅い海底に生える草ですね。ジュゴンは海の牛と呼ばれる大きな動物ですから、毎日食べる海草も大量に必要となる。海が埋め立てられたり護岸工事がされたりして、食べ物も減ってきているようですね」
大雅がタブレットを操作して、地図を表示した。
「『ジュゴンいるいるマップ』というものを見つけました。この赤く塗られているところがいる可能性の高い場所だそうです。沖縄島や西表島の周辺にはまだ赤い場所がいくつかあります。こういう場所に食べ物となる海草が生えているのでしょう」
(※https://note.com/thinknature/n/nb42cb6293cbc 監修の久保田先生によるジュゴンについての考察だよ) 「ジュゴンならおれも知ってるぜ」翔が口をはさむ。「ジュゴンの肉は不老不死の薬になるとか言われて、乱獲されたんだ。あと、知ってるか? ジュゴンのなみだを相手につけると、恋愛が成就するって伝説もあるんだ。松山さんもジュゴンのなみだを比嘉なんとかくんにつけたら、振り向いてくれるんじゃない?」
「ひどい!」
朱音が両手で顔を覆う。さくらは今度は手かげんせずに思いきり翔のすねをけりあげた。
「いてーーっ、暴力反対! 生徒会長だと思って、横暴だぞ! なっ、そうだよな、悠馬」
なみだ目でうったえる翔に、悠馬が冷たく言い放(はな)つ。
「いまのはおまえのほうが悪い。松山さんにちゃんと謝(あやま)るべきだ」
親友から冷静にさとされて、翔はしぶしぶ朱音に頭を下げた。
「すみません。ちょっとからかいすぎました。本気で言ったわけではないので、許してください。松山さんと比嘉くんの間をじゃまするつもりはありません」
朱音が両手を顔に当てたまま応じる。
「そう、じゃまされたの......」
「ん? なんの話をしているの、朱音?」
さくらに問われ、朱音がぽつりぽつりと打ち明けはじめた。
「ホエールウォッチングが終わって港に戻ってきたとき、わたくし、思いきって清志くんに打ち明けたんです。これからも沖縄に来るので、そのときには会ってくださいって」
「本当の気持ちをコクったのね?」
「はい。そしたら清志くん、その場で答えてくれなくて、帰る前に港の隣にある海水浴場に来てくれって。そこで答えるからって」
「海水浴場に来い? 冬なのに泳ごうというつもり?」
悠馬が疑問を投げかけると、朱音がようやく顔をあげた。
「清志くんの意図はよくわかりませんでした。泳ぐといっても、わたくし、水着も持っていっていなかったので、普通のかっこうで行きました。清志くんも普通のかっこうだったので、泳ぐつもりではないんだと思って、ほっとしました」
「それで?」さくらが先をうながす。
「わたくしが『答えを聞かせてくださる?』と言うと、清志くんはおろおろしだして、仲間さんにじゃまされたとかなんとか言って......」
「仲間さんって、さっきの写真に写っていた女子のことね」
「そうです。仲間さんもきっと清志くんのことが好きなのだと思います。わたしが清志くんに思いを伝えたのを知って、彼女、きっとじゃまをしたんです。清志くんからイエスの答えを聞けなくて、わたくし海水浴場から逃げかえってきました。そのままパパとママと一緒に空港へ直行して、帰ってきたんです」
「そうだったんだ。スポーツマンタイプのイケメンかと思ったら、うじうじしただらしない男だったわけね!」
友に代わってプンプンするさくらを、その友がなだめた。
「いや、そこまで悪く言わなくても......」
さくらが困ったように大雅を見た。
「話題を変えましょう。浜松くん、なにかおもしろい話はない?」
すると生徒会室のドアが開いた。顔を上げた生徒会長の岡村さくらは、ドア口にクラスメイトが立っているのに気がついた。
「あら、松山さんじゃない、どうしたの? お母さんが迎えに来られなくなったの?」
松山朱音(あかね)はいわゆるお嬢さんで、いつも母親が車で送り迎えをしていた。
「あまりに静かなので、どなたもいらっしゃらないかと思いましたわ」朱音が生徒会室に足を踏(ふ)み入れた。「今日うかがったのは、皆さまにご報告したいことがあったからです」
「報告?」
副会長の佐野悠馬がきょとんとした顔で聞き返すと、朱音はにっこり微笑(ほほえ)んでうなずいた。
「わたくし、また沖縄に行ってまいりましたの」
松山家は大の沖縄好きで、年に数回は家族で沖縄のリゾートホテルに滞在し、休暇(きゅうか)を楽しんでいるのだった。
「冬休みでも春休みでもないこんな時期に?」
呆(あき)れた様子の庶務の北原翔に、朱音は心外そうな顔をしてみせた。
「どうしても行かねばならない用事があったものですから、おとといの土曜の朝に出発して、昨日の日曜の夜に帰ってきました。せっかく沖縄まで行ったのに、1泊しかできなくて残念でした」
会計の浜松大雅がなにか思いついたらしく、手を打った。
「わかった気がします。松山さんは沖縄で親しくなったボーイフレンドに会いにいったのではないですか?」
「そっか、なるほどね!」さくらがうなずく。
朱音は中一の夏休みに行った沖縄旅行で現地の男の子と親しくなり、桜の時期にまた会おうという約束をしていた。しかし、春休みに再度沖縄を訪れても、目当ての男子とは会えず失望していた。
その話を聞いた書記の大場心美が、沖縄のカンヒザクラが咲くのは1月下旬から2月上旬なので、春休みに会いにいったのが間違いだったのではないかと指摘したのだ。
ノートに計算式を記入していた心美が勢いよく顔を上げると、かけていた眼鏡が大きく揺れた。
「それで、会えましたか?」
「大場さんありがとう。あなたの名推理のおかげで清志(きよし)くんと会うことができました」
「清志くん?」
「比嘉(ひが)清志っていうんです」
朱音が思いを寄せている男子の名前がようやくわかり、さくらが大きな目を輝かせた。
「その比嘉くんって子、見てみたいな」
「写真ならありますわ」朱音がスマホを取り出し、画面に1枚の写真を表示した。「この男の子です」
一同、画面をのぞきこむ。サッカーウェアを着た健康的な印象の少年が、桜をバックに写っていた。照れたような笑みを浮かべ、日に焼けた顔から白い歯がこぼれている。
「かっこよくて、すてき!」さくらが胸の前で手を組んだ。「この子が朱音のボーイフレンドってわけね」
「いや、そういうわけでは......」
朱音が顔を赤らめてうつむくと、比嘉清志の背後に女子中学生が小さく写っていることを悠馬が指摘(してき)した。
「おっ、この子、かわいいじゃん。誰(だれ)?」
「清志くんのクラスメイトで、仲間ナミさん」
そう答える朱音の声が少し暗くなったのを、翔は聞き逃さなかった。
「ははあ、彼女、比嘉くんのガールフレンドなんだろう。わざわざ沖縄まで会いにいったのに、松山さん、振られちゃったんだ。お気の毒、お気の毒」
さくらが翔をにらみつけ、机の下でけりを入れた。突然すねをけられて顔をゆがめた翔にあっかんべーをして、さくらは朱音に向き合った。
「沖縄では比嘉くんと一緒になにをしたの?」
「一緒にクジラを見ましたわ」
「えっ、クジラ?」反応したのは大雅だった。「もしかしてホエールウォッチングですか?」
「そう。清志くんのお父さんがマリンガイドをなさっていて、夏はダイビングとかシュノーケリングを、冬はホエールウォッチングをおもにやられているんです。だから船に乗せてもらって、クジラを見にいきました」
大雅がすばやくタブレットを操作し、画面にクジラの動画を表示した。大きなクジラが海面から上体を持ちあげ、背中から豪快(ごうかい)に落ちると、はでに水しぶきがあがった。
「冬の時期に沖縄周辺にいるのは、このザトウクジラですね。本物が見られたのですか。うらやましいです」
「浜松くんの言うように、ザトウクジラは夏の間はオホーツク海など北のほうにいて、冬になると暖かい南の海に移動して、出産や子育てをするそうです。わたくしもクジラの親子にあうことができました」
「クジラかあ、私もあってみたいなあ。でも、こんな大きな動物が暮らしていけるんだから、南の海は魚などがたくさんいるってことよね」
さくらの言葉に、朱音がうなずいた。
「清志くんのお父さんもおっしゃってましたわ。ホエールウォッチングができるのは、豊かな海がクジラを育てているからだって」
「夏は夏で、美しいサンゴ礁(しょう)に集まる色とりどりの魚たちを見ようと、全国からダイバーたちが集まる。沖縄のマリンガイドという職業は、豊かな海がなければ成り立ちませんね」
大雅が眼鏡に片手を添えて言うと、朱音が同意した。
「そうですの。でも、豊かな海を象徴するある動物が現在、危機的な状態にあって心配だともおっしゃってました」
「豊かな海を代表するある動物......なんですか、それは?」
S中の秀才と評判の大雅も答えがわからなかったが、横から心美がぽつんと言った。
「ジュゴンかな?」
「さすが大場さん! よくわかりましたわね」
朱音からおおげさにほめられて、心美は頬を真っ赤に染めてうつむいた。悠馬が会話に割って入った。
「ジュゴンって、人魚のモデルとか言われている動物だろ? どうして減っているの?」
「昔は人間がたくさん捕まえていたそうです。それで数が激減したって聞きました。年間に30頭以上捕まえられた年もあるそうです。あと、ジュゴンが食べるエサも少なくなったそうです」
「ジュゴンも魚を食べるの?」
「あら、どうだったかしら」
首をかしげる朱音に代わって、大雅が名誉挽回(めいよばんかい)とばかりに答えた。
「ジュゴンは草食動物ですから、食べるのはカイソウです。カイソウといっても、コンブやワカメのような海の藻(も)と書く海藻(かいそう)ではなく、海の草(くさ)と書く海草(かいそう)のほう。浅い海底に生える草ですね。ジュゴンは海の牛と呼ばれる大きな動物ですから、毎日食べる海草も大量に必要となる。海が埋め立てられたり護岸工事がされたりして、食べ物も減ってきているようですね」
大雅がタブレットを操作して、地図を表示した。
「『ジュゴンいるいるマップ』というものを見つけました。この赤く塗られているところがいる可能性の高い場所だそうです。沖縄島や西表島の周辺にはまだ赤い場所がいくつかあります。こういう場所に食べ物となる海草が生えているのでしょう」
(※https://note.com/thinknature/n/nb42cb6293cbc 監修の久保田先生によるジュゴンについての考察だよ) 「ジュゴンならおれも知ってるぜ」翔が口をはさむ。「ジュゴンの肉は不老不死の薬になるとか言われて、乱獲されたんだ。あと、知ってるか? ジュゴンのなみだを相手につけると、恋愛が成就するって伝説もあるんだ。松山さんもジュゴンのなみだを比嘉なんとかくんにつけたら、振り向いてくれるんじゃない?」
「ひどい!」
朱音が両手で顔を覆う。さくらは今度は手かげんせずに思いきり翔のすねをけりあげた。
「いてーーっ、暴力反対! 生徒会長だと思って、横暴だぞ! なっ、そうだよな、悠馬」
なみだ目でうったえる翔に、悠馬が冷たく言い放(はな)つ。
「いまのはおまえのほうが悪い。松山さんにちゃんと謝(あやま)るべきだ」
親友から冷静にさとされて、翔はしぶしぶ朱音に頭を下げた。
「すみません。ちょっとからかいすぎました。本気で言ったわけではないので、許してください。松山さんと比嘉くんの間をじゃまするつもりはありません」
朱音が両手を顔に当てたまま応じる。
「そう、じゃまされたの......」
「ん? なんの話をしているの、朱音?」
さくらに問われ、朱音がぽつりぽつりと打ち明けはじめた。
「ホエールウォッチングが終わって港に戻ってきたとき、わたくし、思いきって清志くんに打ち明けたんです。これからも沖縄に来るので、そのときには会ってくださいって」
「本当の気持ちをコクったのね?」
「はい。そしたら清志くん、その場で答えてくれなくて、帰る前に港の隣にある海水浴場に来てくれって。そこで答えるからって」
「海水浴場に来い? 冬なのに泳ごうというつもり?」
悠馬が疑問を投げかけると、朱音がようやく顔をあげた。
「清志くんの意図はよくわかりませんでした。泳ぐといっても、わたくし、水着も持っていっていなかったので、普通のかっこうで行きました。清志くんも普通のかっこうだったので、泳ぐつもりではないんだと思って、ほっとしました」
「それで?」さくらが先をうながす。
「わたくしが『答えを聞かせてくださる?』と言うと、清志くんはおろおろしだして、仲間さんにじゃまされたとかなんとか言って......」
「仲間さんって、さっきの写真に写っていた女子のことね」
「そうです。仲間さんもきっと清志くんのことが好きなのだと思います。わたしが清志くんに思いを伝えたのを知って、彼女、きっとじゃまをしたんです。清志くんからイエスの答えを聞けなくて、わたくし海水浴場から逃げかえってきました。そのままパパとママと一緒に空港へ直行して、帰ってきたんです」
「そうだったんだ。スポーツマンタイプのイケメンかと思ったら、うじうじしただらしない男だったわけね!」
友に代わってプンプンするさくらを、その友がなだめた。
「いや、そこまで悪く言わなくても......」
さくらが困ったように大雅を見た。
「話題を変えましょう。浜松くん、なにかおもしろい話はない?」
マンガ イラスト©中山ゆき/コルク
■著者紹介■
鳥飼 否宇(とりかい ひう)
福岡県生まれ。九州大学理学部生物学科卒業。編集者を経て、ミステリー作家に。2000年4月から奄美大島に在住。特定非営利活動法人奄美野鳥の会副会長。
2001年 - 『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞。
2007年 - 『樹霊』で第7回本格ミステリ大賞候補。
2009年 - 『官能的』で第2回世界バカミス☆アワード受賞。
2009年 - 『官能的』で第62回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補。
2011年 - 「天の狗」(『物の怪』に収録)で第64日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
2016年 - 『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
■監修■
株式会社シンク・ネイチャー
代表 久保田康裕(株式会社シンクネイチャー代表・琉球大学理学部教授)
熊本県生まれ。北海道大学農学部卒業。世界中の森林生態系を巡る長期フィールドワークと、ビッグデータやAIを活用したデータサイエンスを統合し、生物多様性の保全科学を推進する。
2014年 日本生態学会大島賞受賞、2019年 The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Award受賞。日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)やネイチャーリスク・アラート(https://thinknature-japan.com/habitat-alert)をリリースし反響を呼ぶ。
さらに、進化生態学研究者チームで株式会社シンクネイチャーを起業し、未来社会のネイチャートランスフォーメーションをゴールにしたNafureX構想を打ち立てている。
鳥飼 否宇(とりかい ひう)
福岡県生まれ。九州大学理学部生物学科卒業。編集者を経て、ミステリー作家に。2000年4月から奄美大島に在住。特定非営利活動法人奄美野鳥の会副会長。
2001年 - 『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞。
2007年 - 『樹霊』で第7回本格ミステリ大賞候補。
2009年 - 『官能的』で第2回世界バカミス☆アワード受賞。
2009年 - 『官能的』で第62回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補。
2011年 - 「天の狗」(『物の怪』に収録)で第64日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
2016年 - 『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
■監修■
株式会社シンク・ネイチャー
代表 久保田康裕(株式会社シンクネイチャー代表・琉球大学理学部教授)
熊本県生まれ。北海道大学農学部卒業。世界中の森林生態系を巡る長期フィールドワークと、ビッグデータやAIを活用したデータサイエンスを統合し、生物多様性の保全科学を推進する。
2014年 日本生態学会大島賞受賞、2019年 The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Award受賞。日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)やネイチャーリスク・アラート(https://thinknature-japan.com/habitat-alert)をリリースし反響を呼ぶ。
さらに、進化生態学研究者チームで株式会社シンクネイチャーを起業し、未来社会のネイチャートランスフォーメーションをゴールにしたNafureX構想を打ち立てている。
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修学旅行を計画しよう!
中2のみんなは、いよいよ来年修学旅行だね。
学校でも修学旅行の実行委員が立ち上がったところかもしれないな。
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合唱コン直前対策!
いよいよ迫ってきた「合唱コンクール」!
ARE YOU READY? 準備はOKかい?
練習が嫌だったキミも、絶対に勝ちたいキミも、残すは本番だけ。
キミのみなぎる情熱を歌にこめてぶっつけようぜ!