『田内学 連載 ミライ中学 投資部!
第6話 「安くなったメロンジュースはお得?」』

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2022.08.20
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「違うよ、アカリ。全然分かってないなあ」
「えっ、200円得したんじゃないの?」
悠木アカリは、梶優斗の説明に納得がいかなかった。

浴衣を着たアカリと優斗は、未来神社に向かう道を歩きながらずっともめている。8月最後の日曜日、投資部のみんなで未来神社の夏祭りに参加することになっていたのだ。
二人の小競り合いに、後ろから割って入る女性がいた。
「あなたたちって本当に仲良いわね」
たまたま後ろを歩いていた長谷川先生だ。
「違います。もめているんですよ」と紺色の浴衣を着た優斗がすぐに切り返す。
「先生、私のメロンジュースの話を聞いてくださいよ」
アカリは、さっきから議論している話を、先生に説明し始めた。
昨日、母親と一緒にショッピングに行ったアカリは、高級フルーツパーラーの前で足を止めた。いつも700円の高級メロンジュースが、タイムセールで500円で売られていたのだ。
これはラッキーだと思ったアカリは、自分のおこづかいから500円払ってそのジュースを飲んだ。700円のジュースを500円で買えたのだから、200円得したという当たり前の話だ。
ところが、その話を優斗にしたら、思わぬ反論が返ってきたのだ。得も損もしていないというのだ。
「だって、700円で売れないから500円で売られていたんだろ?ということは、そのジュースの価値は500円なんだよ。500円の価値のものを500円で買ったんだから、損も得もしていないよ。ぼくの話の方が正しいですよね?」
優斗は先生に同意を求めた。

「二人とも、なかなかおもしろい議論をしているじゃない」
先生はうれしそうだ。
「じゃあ、二人に聞くけど、悠木さんが500円で買ったジュースがそのあと、400円に値下がりしたら、100円損することになるのかしら?」 「それは、100円損していますよね」と優斗。
アカリは、すぐに答が出てこなかった。
「そうかしら?ジュースの味が100円分まずくなったわけじゃないわよね」
先生にそう言われて、優斗もだまってしまった。

「実はね、価値には二種類あるのよ」
先生は「使うときの価値と売るときの価値」の話を始めた。

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私たちは二種類の価値を使い分けて暮らしている。
一つは「使うときの価値」だ。たとえば、メロンジュースを飲むとき、多くの人にとっての使う(飲む)ときの価値は、メロンジュースの味だ。
どんなに価格が高くてもまずければ価値は無い。逆に、隣の農家からタダでもらったメロンから作ったジュースでも、おいしければ価値はある。この使うときの価値は、価格とはまったく関係がない。
もう一つは「売るときの価値」、つまり価格だ。商売人にとって大事な価値だ。200円で仕入れたメロンジュースを500円で売ることができれば、300円もうけることができる。商売人にとっては、メロンジュースの味がどんなにまずくても、高く売ることができればもうけることができる。
今回のアカリのケースはどちらの価値が重要だろうか?
アカリがだれかに「売る」ために、ジュースを購入したのなら、値下がりすると困ってしまう。500円で買ったジュースが400円でしか売れなければ100円損をするからだ。
しかし、アカリはジュースを「飲む」ために500円で購入した。アカリにとって大事なのは、「使うときの価値」、つまり味だ。
購入した価格である500円以上においしければ、得をしたことになるし、期待外れでまずければ、損をしたことになる。
この「使うときの価値」と「売るときの価値」を混同してしまうと、お金に振り回されることになる。

「じゃあ、私はすごい得をしたってことですね。かなり甘くておいしかったし、インスタに写真をあげたら、みんなが"いいね"をたくさんくれたんです」
得をしたと確信できて、アカリはうれしそうだ。
「そうね。それならよかったわね」
「うちのママにもその話しますね。いつも福袋の価格に振り回されているんです」
「福袋の価格?」
「この前も、お正月に1万円の福袋を買ったんですよね。"10万円分の服が入っていたわ"って喜んでいるんですけど、どれも気に入らない服ばかりだったようなんです」
「そういうことね。"使うときの価値"を考えると損をしていることになるわね」
すると、優斗がなにかをひらめいた顔をして、口を開いた。
「そういうときは、"売るときの価値"を生かせばいいってことですね。メルカリで売れば一万円以上になるかもしれないし。」
「梶くん、理解が早いわね。気に入らない服をクローゼットにしまっておくよりも、ほかの人に着てもらったほうが、社会全体の"使うときの価値"を高めることにもなるわね」

そして、先生は続けた。
「お金に振り回されないように、自分にとっての幸せを測るモノサシを持つことがだいじよ」

未来神社には多くの屋台が並んでいた。リンゴあめ、ベビーカステラ、焼きとうもろこし、イカ焼き、スピードくじ、輪投げ、金魚すくい。杉林に囲まれていつも静かな境内は人々でにぎわっていた。

アカリはふと思った。
一人ひとりのモノサシが違うから、食べるものが違うし、着るものも違うんだな、と。当たり前のことだけど、すごく大切な気がした。
"いいね"の数も、そんなに気にしなくてもいいのかもしれない。

マンガ イラスト©髙堀健太/コルク


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著者紹介 田内学
書籍「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)著者
国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。
2003年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
以後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に金利トレーダーとして16年間勤務。
日銀による金利指標改革にも携わる。

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