『田内学 連載 ミライ中学 投資部!
第10話 「お金はありがとうの気持ち」』

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アタマをきたえる
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#学校#将来
2022.12.20
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「毎年、5兆円くらいのお金が捨てられているのよ」
長谷川先生の語る衝撃の事実に、悠木アカリも梶優斗も言葉を失う。
「えーーーー」と言ったきり、二人は口を開けて固まった。

今日は、年明けて初めての投資部の活動日だった。さっきまで、部室に集まった生徒たちはお年玉の話題で盛り上がっていた。
「親からしかお年玉もらえなかった」
「全部貯金させられた」
「ゲームの課金で全部使った」
そんな会話が飛び交うなか、アカリはずっと抱えていた疑問を梶優斗に投げかけた。
「お年玉のお金って新札が多いでしょ。古くなった一万円札ってどこにあるんだろう?」
アカリがお年玉でもらったお金は、千円札も一万円札も新札だらけだった。新札もしばらく使われるうちに古くなっていくはず。だけど、ボロボロのお札を目にすることは少ないし、古い紙幣 (しへい)を銀行に持っていくと新しい紙幣に替えてもらえるという話も聞いたことがある。じゃあ、古い紙幣はいったいどこに行くのだろうか。アカリはずっと不思議に思っていた。
「さすがに古くなっても捨てるなんてできないしなあ」
優斗も うで組みをしながら考えている。

この質問に、こともなげに答えてくれたのが、長谷川先生だ。先生は財布の中から千円札を取り出してみんなに見せた。
千円札には、"日本銀行券"と印字されていた。紙幣を発行しているのが、日本銀行という特別な銀行らしい。この銀行が日本中の紙幣の印刷や管理をしていて、古くなった紙幣は日本銀行に回収されて、シュレッダーにかけられて、焼却 (しょうきゃく)処分されるらしいのだ。その額は年間5兆円ほどらしい。
それを聞いた二人は驚きをかくせない。捨てるくらいなら、配ってくれればいいのにと思えてしまう。
「捨てるなんてもったいなくないですか?社会全体として大きな損失な気がしますけど」優斗はいつものように正論を言う。
「お金もらえるなら私だって欲しいわよ。もちろんお金に価値を感じて生きている。だけど、社会全体でみればお金自体には価値が無いの。前に、"お金とは、だれかに働いてもらうためのコミュニケーションの道具だ"という話をしたのを覚えているかしら?」
「無人島に、お金を持って行っても使えないっていう話でしたよね」(第4話『ピラミッドの建設費はいくら?」参照

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「お金があれば、働かなくても欲しいものを手に入る気がする。だけど、それはほかのだれかが働いて、欲しいものを作ってくれているから。仮に社会全体のお金の量が増えても、社会全体で働かなくても良くなるわけじゃないの」
「言われてみると、そんな気もしてきます」
「いい機会ね。去年、お金についていろんな話をしてきたけど、振り返りながら、これまでの話をまとめてみましょうか」

自分の財布(さいふ) だけを見ていると、お金が減ったり、増えたりするように見える。
だけど、お金は財布から財布に移動しているだけで、全体の量は減ったり増えたりしない。地球上を流れている水のようなものだ。大事なのは、貯(た)める ことではなく、流すことにある。
私たちは、お金を貯めていても幸せになるわけではない。お金をもらったときにうれしいのは、将来お金を使ったときに好きなマンガが買えたり、おいしい ジュースが飲めたりするからだ(第6話「安くなったメロンジュースはお得?」参照)。

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こうした、"消費"(モノを買うこと)というお金の使い方 をするとき、お金は働いてくれる多くの人々に流れていく(第5話「食べ放題は元が取れる?」参照)。

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この消費は、自分であったり、まわり の人であったり、現在の私たちが幸せになるために、お金を使うことだ。消費したお金を受け取った人たちは、現在の私たちの生活を支えてくれる。コロナ禍でよく耳にするようになった*エッセンシャルワーカー などもここに含まれる。
一方で、"投資"は、未来の人たちの幸せを考えることだった(第8話「しょっぱさと悔しさと優しさと」第9話「投資の成功は人を幸せにすること」参照)。

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投資にお金が流れると、そのお金を受け取った人は、新しい薬の開発をしたり、新しいゲームの開発をしたり、将来の人々が使うリニアモーターカーを作ったり、未来の人々のために働く。投資部では、お金を受け取っていないけれど、未来の社会の幸せを増やすために働く"投資"活動を行なってきた。
この消費と投資のお金が流れることで、みんなが現在の人々のために働いたり、未来の人々のために働いたりしている。お金という道具を使うことで、人々が支え合う社会が実現されている。

*エッセンシャルワーカー
日々の生活を維持するために現場で働き続けてくれてる職業の方の総称

「お金のために働くって考えると、なるべくなら働かないでお金が欲しいって思っちゃうけど、働くことがだれ かの幸せにつながっていると思うと、働くことってすごく大事ですね」
先生はアカリの言葉がうれしそうだ。
「そうよね。将来の職業を選ぶときに、どういう人を幸せにする仕事なのかって考えることも大事よね」
「先月、まんぷく食堂のベビーカーの女性が、私たちの作ったスロープを使ってくれていましたよね。私、あのとき初めて、自分も知らない人の役に立てるんだって感じて、すごくうれしかったです。それに、私も知らない人たちもいっしょに一つの社会の中で生きているんだなって実感できました」 アカリの言葉に優斗や他の部員たちもうなずいていた。

まじめな雰囲気 に耐えられなくなった優斗は、「だけど、先生」と言って、いじわるな顔で先生に質問をした。
「先生は、僕 たち生徒を幸せにする仕事だから、学校の先生になったわけですね。じゃあ、お給料なんて気にしないってことですか?」

「いつかそういうことを言う生徒がいるだろうと思って、私は第2話で言ったのよ。 "お金はありがとうの気持ちだ"って。ありがとうの気持ちを受け取るのは、私は大好きよ!梶くんは私にもっと感謝しなさい」
「はぁーい」
優斗の気の抜けた返事に、周り の部員たちはどっと笑った。

マンガ イラスト©髙堀健太/コルク


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著者紹介 田内学
書籍「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)著者
国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。
2003年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
以後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に金利トレーダーとして16年間勤務。
日銀による金利指標改革にも携わる。

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2022.12.20

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