『田内学 連載 ミライ中学 投資部!
第9話 「投資の成功は人を幸せにすること」』

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アタマをきたえる
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#学校#将来
2022.11.20
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「二人とも、今日は帰りにまんぷく食堂に寄りましょう。食堂の奥さんから電話があったの」
長谷川先生の提案に、悠木アカリは動揺(どうよう)をかくせない。まんぷく食堂は、アカリと梶優斗が2ヶ月前にスロープを設置したばかりの食堂だ。
「この前みたいに、また失敗ってことですか?」
アカリが怖(こわ)くて聞けなかった質問を優斗が代弁(だいべん)してくれた。先月も同じようにスロープを設置したお寺から電話があって、スロープを撤去(てっきょ)することになった。多くの人々の働きがむだになってしまった。アカリはそのときのことがトラウマになっていた。
「さあ、どうかしら」
今回の"投資"がうまくいっているのか、それともまた失敗したのか、先生の表情からは読み取れなかった。

まんぷく食堂の前で、アカリは一回深呼吸をした。今日はなにを言われるのだろうか。また、撤去してほしいと言われるのだろうか。アカリの頭は不安でいっぱいだった。
「いらっしゃいませー」3人がまんぷく食堂に入ると、おかみさんがいつものように威勢(いせい)のいい声で迎えてくれた。「あら、投資部のみなさん。わざわざ来て下さってありがとうね」
おかみさんの人柄と名物のミックスフライ定食が地元の人たちに愛されている食堂だが、まだ16時半ということもあって、お客さんは入っていない。
店内を見回すアカリの視線が意外なものをとらえた。
「あれ?ベビーチェアって前から置いていましたっけ?」
「アカリちゃん、よく気づいたわね。そうなのよ。バリアフリーになって、ベビーカーで来店する人が増えるから、ベビーチェアを用意したのよね」
おかみさんの言葉を聞いて、アカリはホッとした。ようやく役に立てたんだ。そう思った。

「だけどね」おかみさんの話は終わっていなかった。「うちはほら、イスとテーブルをぎゅうぎゅうに置いてるじゃない。店内はベビーカーで移動しにくいし、子連れのお客さんがゆっくりお食事するのは難しいみたいなのよね」
「・・・ということは、スロープを設置した意味はあまりなかったってことですか?」
アカリはおそるおそる聞いた。

「違うわよ。その逆よ。すごい助かってるのよ。あっ」
おかみさんの視線が、急にアカリの背中側にある食堂の入り口に向けられて、引き戸が開く音が聞こえた。
「いらっしゃいませー」
こんな時間に、お客さんが来るのだろうか? そう思いながら、アカリが振り返ると、ベビーカーをおしたお母さんと5歳くらいの男の子が立っていた。ひさしのおりたベビーカーには赤ちゃんがすやすやと眠っている。
「ちょっと待っててね」とおかみさんはアカリたちに告げると、「なににいたしましょうか?」と子連れのお客さんにたずねた。
「それじゃあ、メンチカツ4つと、サーモンフライを2つください」

"ちょっと待っててね"と言われたものの、そのあともひっきりなしにお客さんがやってきて、おかみさんの手が空(あ)いたのは30分後だった。
「お待たせしちゃってごめんね」
「テイクアウトも始めたんですか?」アカリがたずねた。
「そうなのよ。小さい子のいるお客さんって、ゆっくりご飯を食べられないから、揚げ物のテイクアウトを始めたのよね。そしたら、近所の保育園でクチコミで広まったみたいなの。だから、ほんとにあなたたちのおかげなのよね」
おかみさんは白い紙袋に入った揚げたてのメンチカツが3人に一つずつ配った。
「揚げたてはおいしいわよ。イスに腰かけてゆっくり食べていってよ」


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猫舌の長谷川先生は、メンチカツがさめるまでのあいだ、"投資の成功は人を幸せにすること"という話をしてくれた。

投資の成功というと、お金がもうかることだと思われがちだ。しかし、それは"投資"という活動の一面を表しているのに過ぎない。
例えば、この20年で世界的に投資がうまくいったのは情報技術の分野だろう。
20年前だったら映画を見ようと思えば映画館に行くか、レンタルビデオショップでビデオやDVDを借りないと見られなかった。
しかし、今ではスマホ一台あればかんたんに映画を楽しめる。それだけではない。検索エンジンを使えば、世界中のあらゆる情報にアクセスできるようになったし、S N Sでだれでも情報発信できるようになった。ワンクリックで家にいながらにして、欲しいものが買えるようにもなった。
こうして、私たちの生活が便利になって幸せになること、"投資"という活動の成功だと言える。その幸せに対して、人々はお金を支払い、企業が儲(もう)かる。そして、その企業に投資した人たちに配当などの形で、お金が支払われることになる。人々が幸せになったことの結果として、お金が儲かるのだ。
*配当・・・企業が株主(会社の株を保有している投資家など)に利益を分配すること
投資部がおこなっている"投資"は、お金がもうかるわけでない。だけど多くの人々を幸せにできたのであれば、投資が成功したと言えるはずだ。
「配当が、このメンチカツってことか」
優斗は、メンチカツをしみじみと見つめながら、最後の一口をほおばった。
「自分の行動で、だれかが少しでも幸せになったんだと思うと、それもすごくうれしいよね」アカリは自分も社会の一員になれた気がした。
「アカリやオレが作ったスロープで、小さい子のいる家族のおかずのレパートリーが増えたわけだもんね」
優斗のつぶやきに、二人の背後から声がかかる。
「あんたの家のおかずのレパートリーも増えてるわよ」
聞き覚えのある声に驚いた優斗は、確かめるように振り向いた。
「母さん!いつからいたの?」
そこにいたのは優斗の母だった。
「さっきからいたわよ」
「どうして、ここにいるんだよ」
「最近、ここによく来るのよ。おとといの夕食のアジフライも、まんぷく食堂さんのテイクアウトよ。それより、めぐみちゃんを困らせてないわよね」
「めぐみちゃんってだれだよ」
優斗の母の視線をたどった先にいた女性が軽く頭を下げる。
「おかげさまで、投資部の活動がんばっています。また、ご報告させてください」
長谷川めぐみ先生だった。

長谷川先生は、優斗の母のそろばん教室の生徒だったそうだ。それ以来の付き合いで、今でも"めぐみちゃん"と呼ばれているらしい。でも、"報告させてください"とは、なんのことだろうか。 それについては聞きそびれてしまった。

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マンガ イラスト©髙堀健太/コルク






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著者紹介 田内学
書籍「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)著者
国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。
2003年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
以後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に金利トレーダーとして16年間勤務。
日銀による金利指標改革にも携わる。

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2022.11.20

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