『田内学 連載 ミライ中学 投資部!
第5話 「食べ放題は元が取れる?」』

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#将来
2022.07.20
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「うわー、うまそう!今日は食って食って食いまくるぞ!」
これから焼かれる牛肉の大皿を前に梶優斗は意気込んでいた。
そのとなりで、とり肉を焼き始めた悠木アカリ。
「私、牛肉よりもとり肉のほうがさっぱりしていて好きなんだよねー」
「アカリぃー、食べ放題に来ているんだから、高い牛肉食べないと元取れないぞ」
アカリと優斗の2人は、投資部の顧問の長谷川先生と一緒に食べ放題の焼肉屋に来ていた。
「あのねぇ、梶くん。ここは私がおごるわけだから、あなたは元が取れないってことはないのよ。それよりも、食べ過ぎてお腹を壊さないようにしてよね」

投資部の活動が始まって3ヶ月。2年生が木製スロープの設計図を書いて、2人1チームになった1年生が制作している。2人とも、大工道具の使い方がすっかり板についてきた。今日は、優斗とアカリの記念すべき一つ目のスロープが完成した。
といっても、そのごほうびで焼肉をおごってもらったわけではない。たまたま、帰り道で一緒になった長谷川先生が、今日までしか使えない焼肉屋の食事券を3枚持っていたのだった。

ここは、近所でも評判の焼肉店。アカリも家族と一緒に何度か訪れたことがある。90分の制限時間内であれば、肉だけでなく野菜やご飯、デザートまでが食べ放題のお店だ。
「ところで、どうして投資部に入ろうと思ったの?」
長谷川先生は、トングをつかって網の上にていねいに肉を並べながら、二人に聞いた。
「私は、最近投資を始めたお母さんよりも、投資にくわしくなりたいと思って」
「僕は、お金もうけについて学びたくて入りました。母がそろばん教室を経営しているんですが、お金もうけが全然得意じゃないんですよね。僕は母みたいになりたくないです」
「そうかあ。梶くんはお金について学びたいのねえ。なるほど」
長谷川先生は、なにかに引っかかっているようだ。

「先生はどこで投資を学んだんですか?」
アカリの質問に、先生はウーロン茶を一口飲んでから答えた。
「私ね、ミライ中学に来る前は東京にいたの」
先生は、高校を卒業すると、東京の大学に進学したそうだ。大学を卒業してから就職したのは、東京にある外資系の証券会社。そこで、お金や経済、投資を学んだらしい。5年ほど働いたのちに、地元に戻って去年からミライ中学の英語の先生になったということだった。 アカリは、自分が6年後に大学生になって東京で一人暮らしをしている姿が、想像つかなかった。お母さんがいなかったら、どうやってご飯を作ればいいのか、洗たくのしかたも分からない。そういうことも教えてもらわなきゃ、とぼんやり考えながら、先生の話を聞いていた。

「梶くん、もっとゆっくり食べていいのよ」
先生の視線の先にいる優斗は、絶えず口を動かしている。
「先生、ここは食べ放題なんですよ。たくさん食べないと元が取れないですよ」
「元が取れない、かあ」とつぶやいて先生は続けた。
「じゃあ、問題ね。今回はサービス券を使ってるけど、本来は一人3000円よね。どれくらい食べたら元が取れると思う?ここの牛肉は、となりのお肉屋さんで、100g500円で売られているお肉よ」
「そんなの簡単な割り算ですよ。600g食べたら元が取れます」
「なるほどね。じゃあ、『元が取れる』ってのはどういう意味かしら?」
「それは、材料代以外は払わないってことですよ」
「残念ながら、それはできないわ」
「それって、働く人への感謝がないから、良くないって話ですか?」
やりとりを聞いていたアカリが口をはさむ。
「そうじゃないの。材料代なんて存在してないのよ。梶くんが言うような『元を取る』ってことがそもそもできないの」
「えっ、どういうことですか?」
先生は、二人に説明を始めた。

モノを作るには、材料が必要だ。その材料を調達するときに支払う金額を、材料費とか「原価」と呼んだりする。この焼肉店の場合、牛肉の原価は100g500円だ。だから、600g食べれば3000円分の"元"が取れると梶くんは思った。
しかし、隣の肉屋にとっての原価は別に存在する。100g500円の中には肉屋で働く人たちの給料や利益が含まれているのだ。肉屋にとっての原価は100g300円だったりする。とすると、1000g食べれば3000円分食べたことになるのだろうか。実はこれも違う。
この100g300円という価格も食肉工場から買ってきた価格だ。さらには、食肉工場も牧場から牛を買ってくる。その価格は100g100円だ。だけど、この価格にも多くの働く人への給料が含まれている。牛を育てる人や、牛を工場まで運ぶ人や、牛のエサになる牧草を育てる人もいる。すると最終的に行き着くのは、生まれた子牛に行きつく。
このように、100g500円の内訳を考えていくと、働く人への給料や会社の利益、そして原価の存在しない自然の恵みに行きつく。梶くんのいうように「元を取りたい。材料代以外は払わない」ということは不可能なのだ。お金によって製品が生み出されるのではなく、多くの人々の労働と自然のなかにあるものによって製品は生み出されている。
これは、自動車などの複雑な機械でも同じだ。自動車を作るには部品代が必要だと思うかもしれないが、その部品も元をたどれば、山のなかに埋まっている鉄鉱石に行き着く。
私たちがお金で買っているものは、商品ではなく、多くの人々の労働だ。

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「最近は、ワンクリックで商品が買えるから、お金が商品に変わるかのような錯覚をしちゃうわよね。だけど、この一切れの焼肉にしても、ものすごい多くの人々の労働が積み重なって、私たちの口に入るのよ」
「たしかに、言われるまで全く気づかなかった」優斗は深くうなずく。
「お金だけ見ていると、大切なことが見えなくなっちゃうのよね。梶くんのお母さんのそろばん教室だって、お金もうけ以外のことを見ているんじゃないかしら」

「そっか、お金じゃないよな!」
優斗の箸が、アカリの焼いていた肉を奪う。
「ちょっとぉー、それ私が焼いていたとり肉よ!あんたは、高い牛肉だけ食べるんじゃなかったの!」
アカリの苦情を横目に、優斗はとり肉を何度もかみしめていた。

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マンガ イラスト©髙堀健太/コルク



 



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著者紹介 田内学
書籍「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)著者
国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。
2003年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
以後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に金利トレーダーとして16年間勤務。
日銀による金利指標改革にも携わる。

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