『合唱コン　くちパクじゃやっぱダメ？』

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: 2024.08.29

「ジャ○アンなんだよな」
「え？」
教室の隣でボソッとつぶやいたヒロトの言葉をアキは聞き返した。
「歌だよ。オレの歌いかたさあ、自分でもジャイ○ンに似てるって思うよ。あー、恥ずかしい」
「ああ、さっきの合唱コンの練習のことか。まだ1回目じゃん」
「何回やったってうまくならないよ。音痴なんだ、オレ」
「そんなことないよ。ヒロトの歌って...」
どこかいいところを探そうとして、アキは詰まってしまった。確かにうまくはない。
「...野生的っていうかさ...」
「苦しまぎれに言うなよ。やっぱ、あれか。必殺「口パク」でいくか！」
アキは苦笑いを浮かべて首を振った。
「口パクは絶対にダメ。それに、ジャイア○の歌いかたは、ある意味...個性的よ！」
「だから苦しまぎれに言うなっての」
アキは真剣な表情に戻り、ヒロトをじっと見つめた。
「違う、違う。マジメに言ってるよ。ヒロトの歌にはエネルギーがある。音程が外れてても、それだけであきらめるのはもったいないって。合唱はみんなでひとつの音楽を作り上げるんだから、ヒロトのエネルギーがその一部になるのが大事なんだよ」
ヒロトはアキの言葉に少し戸惑いながらも、心のなかでなにかが変わるのを感じた。
「エネルギーね...」
「そうだよ。それがヒロトらしさだよ」
「そっか、アキがそこまで言うならちょっとがんばってみっか。そうすりゃ、いつかリサイタルを開けるかもだしな」
アキは目を閉じ腕を組んで言った。
「それは...合唱コンが終わってから考えようよ、ね、ね？」