「なんだよ、琴音。緊張してんのかー？　明日の発表」
晴人は深刻な顔で発表の原稿を暗記している琴音に声をかけた。
「緊張するわよ。体育館に全校生徒が集まったなかで発表するんだもん。もし失敗したら・・」
「おまえのレポート、市の文化展で受賞したんだろ？　すげえじゃん。みんな期待してるぜ！」
「だからそれがプレッシャーなのよ。みんなの期待がかかっているなかで失敗しちゃったら」
「ジャガイモだよ」
「え？」
「体育館に集まったやつは全員ジャガイモだって思えばいいんだ」
「ジャガイモ？」琴音は驚いて顔を上げた。
「どうやったらみんながジャガイモに見えるわけ？」
晴人はにやりと笑った。
「目を細めて想像してみなよ。みんな丸っこい形して、じっとこっちを見てるだけのジャガイモだって。動かないし、文句も言わない。もし発表に失敗しても、ジャガイモ相手だと思えば恥ずかしくないだろ？」
琴音は思わず吹き出した。
「ジャガイモね...、なんだか少し気が楽になったかも」
「だろ？　とにかく、気楽にやればいいんだ。ジャガイモがなにを言うわけでもないし」
「うん、なんか言ったら煮込んでカレーにしてやる！」