『鳥飼否宇「生徒会書記はときどき饒舌
第6話 中庭の奇跡(前編)』
年が明けて冬休みも終わり、三学期がはじまった。一年の締(し)めくくりである三学期の行事について確認を終えた生徒会メンバーが帰り支度(じたく)を整えていると、生物部員の黒瀬千紘(ちひろ)が駆け込んできた。
「ちょ、ちょ、ちょっと聞いてください」
生徒会長の岡村さくらが目を丸くした。
「そんなにあわててどうしたの?」
副会長の佐野悠馬はからかうような口調で言った。
「もしかして、また万作が脱走したのか?」
悠馬は先月、理科室の水槽からミシシッピアカミミガメが逃げ出したことについて皮肉を言ったのだった。だが、カメの名前が違っていた。 「万作ではなくて、万吉です。万吉はちゃんと水槽(すいそう)のなかにいます。今回は奇跡が起こったんです!」
千紘が興奮さめやらぬ表情でそう言うと、それまでタブレット端末でなにか調べ物をしていた会計の浜松大雅が顔を上げた。
「奇跡ですって?」
「そうなんです。奇跡としか思えません」
「気になるわね。その話、聞かせてくれる?」
さくらにうながされて、千紘が「もちろんです」と説明しはじめた。
「校舎のあいだの中庭に小さな池があるのは知ってますよね?」
「知ってるよ」と答えたのは庶務の北原翔だった。「あの池、小さいけどシオカラトンボがいるんだぜ」
翔の言うとおり、幅2メートル、長さ5メートル、深さ50センチほどの小さなコンクリート製の池だった。
千紘が大きくうなずく。
「そう、その池です。あの池にカダヤシがいたの知ってますか?」
「カダヤシ? それってなに?」
首をかしげる悠馬に、大雅がタブレットを素早く操作し、画面を見せた。
「この魚がカダヤシです」
悠馬だけでなく、さくらも翔も画面に顔を近づけた。さくらが目を丸くして声を上げた。
「なにこれ、メダカじゃないの?」
「よく似ているけど、違うんです」千紘が説明する。「カダヤシは北アメリカ原産の外来種です。汚れた水でも平気なので、ボウフラを退治するために日本に持ちこまれ、放されました」
「なるほど!」大雅がなにか思いついたように声を上げた。「カを絶やす魚なので、カダヤシなのですね」
「はい。多分、日本に持ちこむときに、そんな名前がつけられたんだと思います。浜松くん、メダカの画像も表示できますか?」
千紘の要望を受けて、大雅がメダカを検索した。そして、カダヤシとメダカの画像を並べて表示した。
「大きさも見た目もよく似ていますね」
大雅が感想を述べると、千紘が画面を指さした。
「一番違うのは尻びれの形です。メダカは体に沿って平行四辺形の大きいひれがついているけど、カダヤシはこれが小さい。カダヤシは体が青っぽく見える個体が多いのも特徴です」
「微妙だなあ」
あきれて首を振る悠馬に、千紘が力説した。
「あと、メダカは卵生なのでメスが水草などに卵を産みつけるのに対して、カダヤシはメスがお腹のなかで卵をかえして、稚魚(ちぎょ)を産むのも違いです」
「魚なのに子どもを産むの? そんなのがいるんだ!」悠馬が驚いて目を見開いた。
「そんな魚もいるんですよ。卵胎生(らんたいせい)っていうんですけどね」
「たしか......」大雅が口をはさんだ。「カダヤシは外来種で、世界と日本の侵略的外来種ワースト100に選ばれていましたね」
さくらが大雅のほうに笑顔を向けた。
「その言葉、聞いたことがある。この前、浜松くんが調べてきたんだよね」
「そのとおりです」大雅が自慢げに眼鏡(めがね)に手を添える。「世界の侵略的外来種ワースト100は世界中で生態系に悪い影響を及ぼしている外来種で、ミシシッピアカミミガメやウシガエル、コイなどが選ばれていました。日本の侵略的外来種ワースト100は特に日本の生態系にダメージを与える外来種ですね。世界のワースト100と重なる種も多いですが、そのほかにもアライグマやアメリカザリガニなどが選ばれていました。カダヤシも小さい魚なのに世界と日本のワースト100に入っています。それだけ生態系への悪影響が大きいのでしょうね」
千紘がわが意を得たかのようにうなずいた。
「そう。カダヤシは汚れた水に強く、繁殖(はんしょく)力もおう盛なので、日本各地でメダカを滅ぼして、おきかわっているんです」
すぐに大雅が反応した。
「聞いたことがあります。いまやメダカは絶滅が心配されているらしいですね」
「はい。そのためカダヤシは特定外来種にも指定されています」
「特定外来種?」翔が聞き返す。「いろんな外来種がいるんだな」
「特定外来種というのは、外来生物法という法律で指定された動植物で、指定されると、その生物を輸入することも、販売することも、飼育することも、移動することも、野外に放すこと、他人に譲(ゆず)ることも禁止されます。違反すると罰則もあります」
「あのお......」
それまで部屋のすみで静かに話を聞いていた書記の大場心美がおずおずと質問した。
「奇跡というのは......?」 「あっ、そうでした」千紘が両手をパンと叩く。「すっかり話がそれてしまって。えっと、中庭の池にはカダヤシがいたわけです。それがいつの間にかメダカに置き換わっちゃったわけです。すごいでしょ!」
「ん? ついさっきは各地でカダヤシがメダカにおきかわっているって言ってたよね?」
悠馬が確認すると、千紘が目を輝かせた。
「そうなんですよ! それが中庭の池に関しては逆のことが起こったわけです。すごくないですか? 奇跡でしょう!」
「奇跡かどうかは別にして、気にはなりますね」
大雅は同意したが、翔は否定的だった。
「カダヤシをメダカに見間違えただけなんじゃねえの?」
「そんなことありません。嘘だと思うなら自分の目で確かめてみたらいかがでしょう。見せてあげますから、中庭の池に来てください」
「ああ、みんなで行ってみようぜ!」
ということで、全員で池を見にいくことになった。
池に着いたところで、千紘が水面を指さした。
「ほら、あそこに泳いでいるでしょう」
たしかに小さな魚が10匹ほど一列になって水草のあいだを泳いでいる。
「いるね。でもここからながめても、正直なところカダヤシかメダカかわからないな」
悠馬の言葉を受けて、千紘が池のそばに置いてあった、たも網(あみ)に手を伸ばした。
「見ててください。トリャー」
威勢(いせい)のよいかけ声とともに、千紘が網で池の表面を素早くすくった。次の瞬間、網の中では4匹の銀色の小魚がピチピチとはねていた。千紘は隣にいた翔に、「ボッとしてないで、そのケースに池の水をくんでください!」と命じた。翔が言われたとおりにプラスチック製の小さなケースに水をくむと、千紘が網の中の魚をケースに放った。4匹の小魚は新しい環境に戸惑ったように、一団となってケースの中ほどで右往左往していた。
「それでは、尻びれをよーく見てくださいね」
千紘がプラケースを両手で持ち上げ、一同が横からのぞきこんだ。
「4匹とも尻びれが平行四辺形です。たしかにメダカのようですね」
大雅が認めたので、千紘はにんまり笑った。
「ほら。カダヤシがいつの間にかメダカになっちゃったんです。これは奇跡でしょ?」
しかし、翔はまだ納得していなかった。
「ここに以前カダヤシがいたってのが間違いかも。実際はメダカだったのに、黒瀬さんがカダヤシだと思いこんでいたいただけじゃねえの?」
「そこまで言うのなら、証拠を見せます」千紘はスマホを取り出すと、写真の一覧の中から、一枚の写真を選んで画面に表示した。「これ、去年の9月10日に撮った写真なのですが、ほら見てみてください。尻びれが小さいでしょ。体にはうっすら青みがあります」
今と同じようにプラケースの中で泳いでいる3匹の小魚を横から撮った写真だった。3匹とも尻びれが小さく、カダヤシで間違いなかった。透明のケース越しにS中の校舎が確認できる。校舎の見え方は現在と同じで、写真は現在と同じ中庭の池で撮影されたことがうかがわれた。
「黒瀬さんの言うとおりだね。9月10日にはカダヤシがいたことは間違いないみたい。そして、いまはメダカになっている。この4か月のあいだ、確認はしなかったの?」 さくらが確認すると、千紘は首を横に振った。
「まさかこんなことが起こるなんて思っていなかったから、まったく確認していませんでした。今日なにげなく池をのぞいたら、魚の数が減っていたから、おやっと思って網ですくってみたんです。そしたらメダカだったからびっくりしてしまって」
「ということは、カダヤシはもっとたくさんいたってこと?」
「はい。少なくとも30匹はいたと思います」
千紘の答えを聞いた大雅が新たな疑問を提示した。
「ちょっと待ってください。黒瀬さんの話では、カダヤシは特定外来種で、飼うことも、移動することも、野外に放すことも禁止されているという話でした。そもそもどうしてカダヤシが中庭の池にいたのでしょう?」
「それは突き止めました。外来生物法が施行されたのは2005年で、それ以前は特定外来種という考えかたがなかったみたいなんです。そんな時代に、前の前の前の前の前の......えっと5代前の校長先生が、カを退治するためによかれと思って、中庭にカダヤシを放しちゃったらしいんです。その直後に外来生物法ができたので、カダヤシを捕まえても移動させることができなくなってしまい、しかたなくそのまま放っておいたんだそうです」
「なるほどよくわかりました」大雅が小さくうなずいた。「メダカよりも強いとされているカダヤシが30匹もいた池に、4か月後には10匹のメダカがゆうゆうと泳いでいる。これはたしかに謎です」
「奇跡でしょ?」と千紘。
「奇跡であるかどうかはもっと慎重(しんちょう)に見極める必要があります。この4か月のあいだに、中庭の池でなにか変わったことが起きていなかったかどうか、全校生徒から情報を募集してみてはいかがでしょうか。だれかがなにか目撃しているかもしれません」
大雅が提案すると、さくらがすぐさま賛成した。
「名案だと思う。ではさっそく情報提供のチラシを作りましょう!」
さくらは生徒会室に戻ると、その場で「情報求む! 9月10日以降、この池でなにか変わったできごとや不審な人物を目撃した人がいたら、生徒会までお知らせください。よろしくね♡」と手書きのチラシを作った。そして、それを段ボール紙に張ると、画びょうで池のそばの松の木に取りつけたのだった。
「これでなにか目撃証言が出てくるといいけど」
さくらが自作のチラシを見ながらつぶやいた。
「ちょ、ちょ、ちょっと聞いてください」
生徒会長の岡村さくらが目を丸くした。
「そんなにあわててどうしたの?」
副会長の佐野悠馬はからかうような口調で言った。
「もしかして、また万作が脱走したのか?」
悠馬は先月、理科室の水槽からミシシッピアカミミガメが逃げ出したことについて皮肉を言ったのだった。だが、カメの名前が違っていた。 「万作ではなくて、万吉です。万吉はちゃんと水槽(すいそう)のなかにいます。今回は奇跡が起こったんです!」
千紘が興奮さめやらぬ表情でそう言うと、それまでタブレット端末でなにか調べ物をしていた会計の浜松大雅が顔を上げた。
「奇跡ですって?」
「そうなんです。奇跡としか思えません」
「気になるわね。その話、聞かせてくれる?」
さくらにうながされて、千紘が「もちろんです」と説明しはじめた。
「校舎のあいだの中庭に小さな池があるのは知ってますよね?」
「知ってるよ」と答えたのは庶務の北原翔だった。「あの池、小さいけどシオカラトンボがいるんだぜ」
翔の言うとおり、幅2メートル、長さ5メートル、深さ50センチほどの小さなコンクリート製の池だった。
千紘が大きくうなずく。
「そう、その池です。あの池にカダヤシがいたの知ってますか?」
「カダヤシ? それってなに?」
首をかしげる悠馬に、大雅がタブレットを素早く操作し、画面を見せた。
「この魚がカダヤシです」
悠馬だけでなく、さくらも翔も画面に顔を近づけた。さくらが目を丸くして声を上げた。
「なにこれ、メダカじゃないの?」
「よく似ているけど、違うんです」千紘が説明する。「カダヤシは北アメリカ原産の外来種です。汚れた水でも平気なので、ボウフラを退治するために日本に持ちこまれ、放されました」
「なるほど!」大雅がなにか思いついたように声を上げた。「カを絶やす魚なので、カダヤシなのですね」
「はい。多分、日本に持ちこむときに、そんな名前がつけられたんだと思います。浜松くん、メダカの画像も表示できますか?」
千紘の要望を受けて、大雅がメダカを検索した。そして、カダヤシとメダカの画像を並べて表示した。
「大きさも見た目もよく似ていますね」
大雅が感想を述べると、千紘が画面を指さした。
「一番違うのは尻びれの形です。メダカは体に沿って平行四辺形の大きいひれがついているけど、カダヤシはこれが小さい。カダヤシは体が青っぽく見える個体が多いのも特徴です」
「微妙だなあ」
あきれて首を振る悠馬に、千紘が力説した。
「あと、メダカは卵生なのでメスが水草などに卵を産みつけるのに対して、カダヤシはメスがお腹のなかで卵をかえして、稚魚(ちぎょ)を産むのも違いです」
「魚なのに子どもを産むの? そんなのがいるんだ!」悠馬が驚いて目を見開いた。
「そんな魚もいるんですよ。卵胎生(らんたいせい)っていうんですけどね」
「たしか......」大雅が口をはさんだ。「カダヤシは外来種で、世界と日本の侵略的外来種ワースト100に選ばれていましたね」
さくらが大雅のほうに笑顔を向けた。
「その言葉、聞いたことがある。この前、浜松くんが調べてきたんだよね」
「そのとおりです」大雅が自慢げに眼鏡(めがね)に手を添える。「世界の侵略的外来種ワースト100は世界中で生態系に悪い影響を及ぼしている外来種で、ミシシッピアカミミガメやウシガエル、コイなどが選ばれていました。日本の侵略的外来種ワースト100は特に日本の生態系にダメージを与える外来種ですね。世界のワースト100と重なる種も多いですが、そのほかにもアライグマやアメリカザリガニなどが選ばれていました。カダヤシも小さい魚なのに世界と日本のワースト100に入っています。それだけ生態系への悪影響が大きいのでしょうね」
千紘がわが意を得たかのようにうなずいた。
「そう。カダヤシは汚れた水に強く、繁殖(はんしょく)力もおう盛なので、日本各地でメダカを滅ぼして、おきかわっているんです」
すぐに大雅が反応した。
「聞いたことがあります。いまやメダカは絶滅が心配されているらしいですね」
「はい。そのためカダヤシは特定外来種にも指定されています」
「特定外来種?」翔が聞き返す。「いろんな外来種がいるんだな」
「特定外来種というのは、外来生物法という法律で指定された動植物で、指定されると、その生物を輸入することも、販売することも、飼育することも、移動することも、野外に放すこと、他人に譲(ゆず)ることも禁止されます。違反すると罰則もあります」
「あのお......」
それまで部屋のすみで静かに話を聞いていた書記の大場心美がおずおずと質問した。
「奇跡というのは......?」 「あっ、そうでした」千紘が両手をパンと叩く。「すっかり話がそれてしまって。えっと、中庭の池にはカダヤシがいたわけです。それがいつの間にかメダカに置き換わっちゃったわけです。すごいでしょ!」
「ん? ついさっきは各地でカダヤシがメダカにおきかわっているって言ってたよね?」
悠馬が確認すると、千紘が目を輝かせた。
「そうなんですよ! それが中庭の池に関しては逆のことが起こったわけです。すごくないですか? 奇跡でしょう!」
「奇跡かどうかは別にして、気にはなりますね」
大雅は同意したが、翔は否定的だった。
「カダヤシをメダカに見間違えただけなんじゃねえの?」
「そんなことありません。嘘だと思うなら自分の目で確かめてみたらいかがでしょう。見せてあげますから、中庭の池に来てください」
「ああ、みんなで行ってみようぜ!」
ということで、全員で池を見にいくことになった。
池に着いたところで、千紘が水面を指さした。
「ほら、あそこに泳いでいるでしょう」
たしかに小さな魚が10匹ほど一列になって水草のあいだを泳いでいる。
「いるね。でもここからながめても、正直なところカダヤシかメダカかわからないな」
悠馬の言葉を受けて、千紘が池のそばに置いてあった、たも網(あみ)に手を伸ばした。
「見ててください。トリャー」
威勢(いせい)のよいかけ声とともに、千紘が網で池の表面を素早くすくった。次の瞬間、網の中では4匹の銀色の小魚がピチピチとはねていた。千紘は隣にいた翔に、「ボッとしてないで、そのケースに池の水をくんでください!」と命じた。翔が言われたとおりにプラスチック製の小さなケースに水をくむと、千紘が網の中の魚をケースに放った。4匹の小魚は新しい環境に戸惑ったように、一団となってケースの中ほどで右往左往していた。
「それでは、尻びれをよーく見てくださいね」
千紘がプラケースを両手で持ち上げ、一同が横からのぞきこんだ。
「4匹とも尻びれが平行四辺形です。たしかにメダカのようですね」
大雅が認めたので、千紘はにんまり笑った。
「ほら。カダヤシがいつの間にかメダカになっちゃったんです。これは奇跡でしょ?」
しかし、翔はまだ納得していなかった。
「ここに以前カダヤシがいたってのが間違いかも。実際はメダカだったのに、黒瀬さんがカダヤシだと思いこんでいたいただけじゃねえの?」
「そこまで言うのなら、証拠を見せます」千紘はスマホを取り出すと、写真の一覧の中から、一枚の写真を選んで画面に表示した。「これ、去年の9月10日に撮った写真なのですが、ほら見てみてください。尻びれが小さいでしょ。体にはうっすら青みがあります」
今と同じようにプラケースの中で泳いでいる3匹の小魚を横から撮った写真だった。3匹とも尻びれが小さく、カダヤシで間違いなかった。透明のケース越しにS中の校舎が確認できる。校舎の見え方は現在と同じで、写真は現在と同じ中庭の池で撮影されたことがうかがわれた。
「黒瀬さんの言うとおりだね。9月10日にはカダヤシがいたことは間違いないみたい。そして、いまはメダカになっている。この4か月のあいだ、確認はしなかったの?」 さくらが確認すると、千紘は首を横に振った。
「まさかこんなことが起こるなんて思っていなかったから、まったく確認していませんでした。今日なにげなく池をのぞいたら、魚の数が減っていたから、おやっと思って網ですくってみたんです。そしたらメダカだったからびっくりしてしまって」
「ということは、カダヤシはもっとたくさんいたってこと?」
「はい。少なくとも30匹はいたと思います」
千紘の答えを聞いた大雅が新たな疑問を提示した。
「ちょっと待ってください。黒瀬さんの話では、カダヤシは特定外来種で、飼うことも、移動することも、野外に放すことも禁止されているという話でした。そもそもどうしてカダヤシが中庭の池にいたのでしょう?」
「それは突き止めました。外来生物法が施行されたのは2005年で、それ以前は特定外来種という考えかたがなかったみたいなんです。そんな時代に、前の前の前の前の前の......えっと5代前の校長先生が、カを退治するためによかれと思って、中庭にカダヤシを放しちゃったらしいんです。その直後に外来生物法ができたので、カダヤシを捕まえても移動させることができなくなってしまい、しかたなくそのまま放っておいたんだそうです」
「なるほどよくわかりました」大雅が小さくうなずいた。「メダカよりも強いとされているカダヤシが30匹もいた池に、4か月後には10匹のメダカがゆうゆうと泳いでいる。これはたしかに謎です」
「奇跡でしょ?」と千紘。
「奇跡であるかどうかはもっと慎重(しんちょう)に見極める必要があります。この4か月のあいだに、中庭の池でなにか変わったことが起きていなかったかどうか、全校生徒から情報を募集してみてはいかがでしょうか。だれかがなにか目撃しているかもしれません」
大雅が提案すると、さくらがすぐさま賛成した。
「名案だと思う。ではさっそく情報提供のチラシを作りましょう!」
さくらは生徒会室に戻ると、その場で「情報求む! 9月10日以降、この池でなにか変わったできごとや不審な人物を目撃した人がいたら、生徒会までお知らせください。よろしくね♡」と手書きのチラシを作った。そして、それを段ボール紙に張ると、画びょうで池のそばの松の木に取りつけたのだった。
「これでなにか目撃証言が出てくるといいけど」
さくらが自作のチラシを見ながらつぶやいた。
マンガ イラスト©中山ゆき/コルク
■著者紹介■
鳥飼 否宇(とりかい ひう)
福岡県生まれ。九州大学理学部生物学科卒業。編集者を経て、ミステリー作家に。2000年4月から奄美大島に在住。特定非営利活動法人奄美野鳥の会副会長。
2001年 - 『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞。
2007年 - 『樹霊』で第7回本格ミステリ大賞候補。
2009年 - 『官能的』で第2回世界バカミス☆アワード受賞。
2009年 - 『官能的』で第62回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補。
2011年 - 「天の狗」(『物の怪』に収録)で第64日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
2016年 - 『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
■監修■
株式会社シンク・ネイチャー
代表 久保田康裕(株式会社シンクネイチャー代表・琉球大学理学部教授)
熊本県生まれ。北海道大学農学部卒業。世界中の森林生態系を巡る長期フィールドワークと、ビッグデータやAIを活用したデータサイエンスを統合し、生物多様性の保全科学を推進する。
2014年 日本生態学会大島賞受賞、2019年 The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Award受賞。日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)やネイチャーリスク・アラート(https://thinknature-japan.com/habitat-alert)をリリースし反響を呼ぶ。
さらに、進化生態学研究者チームで株式会社シンクネイチャーを起業し、未来社会のネイチャートランスフォーメーションをゴールにしたNafureX構想を打ち立てている。
鳥飼 否宇(とりかい ひう)
福岡県生まれ。九州大学理学部生物学科卒業。編集者を経て、ミステリー作家に。2000年4月から奄美大島に在住。特定非営利活動法人奄美野鳥の会副会長。
2001年 - 『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞。
2007年 - 『樹霊』で第7回本格ミステリ大賞候補。
2009年 - 『官能的』で第2回世界バカミス☆アワード受賞。
2009年 - 『官能的』で第62回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補。
2011年 - 「天の狗」(『物の怪』に収録)で第64日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
2016年 - 『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
■監修■
株式会社シンク・ネイチャー
代表 久保田康裕(株式会社シンクネイチャー代表・琉球大学理学部教授)
熊本県生まれ。北海道大学農学部卒業。世界中の森林生態系を巡る長期フィールドワークと、ビッグデータやAIを活用したデータサイエンスを統合し、生物多様性の保全科学を推進する。
2014年 日本生態学会大島賞受賞、2019年 The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Award受賞。日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)やネイチャーリスク・アラート(https://thinknature-japan.com/habitat-alert)をリリースし反響を呼ぶ。
さらに、進化生態学研究者チームで株式会社シンクネイチャーを起業し、未来社会のネイチャートランスフォーメーションをゴールにしたNafureX構想を打ち立てている。
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