『田内学 連載 ミライ中学 投資部!
第7話 「3つのMOTTAINAI」』
「衣がサクサクで、すっごいおいしい!」
アジフライを口にした悠木アカリから笑顔がもれる。
「メンチカツもおいしいわよ。梶くんの近所にこんなおいしいお店があったのね」
しょう油派の長谷川先生はメンチカツにしょう油をかけて食べている。
「でしょでしょ!ここのミックスフライ定食は絶品なんですよ」
梶優斗の案内で、3人は梶家行きつけのまんぷく食堂に来ていた。投資部の活動の一環としてすすめてきた「まんぷく食堂バリアフリープロジェクト」の納品にやってきたのだった。
昔ながらの食堂の入り口には少し段差があって、ベビーカーや車いすだと入りづらい。そこに設置するスロープがようやく完成したのだ。設置が終わって、食堂のおかみさんが3人にごちそうしてくれたのだった。
3人はあっというまにミックスフライ定食を完食した。
「3人とも食べっぷりがいいから、おばさんも作りがいがあってうれしいわ」
おかみさんがカウンターごしに話しかけてきた。まだ6時前ということもあって、店内にはほかにお客さんはいなかった。
「だけど、最近は食べ残す人が多いのよね。おかわりしたご飯を残されると、もったいなくて残念な気持ちになるわ。おかわりの代金をもらっているから文句は言えないんだけど」
そういうとおかみさんは店の奥へと戻っていった。
「お米一粒には7人の神様が宿っているって言うわよね」
という長谷川先生のつぶやきに、アカリがツッコミを入れる。
「そんなに神様いませんよー。おちゃわん一杯に何千人もの神様が必要になっちゃいますよ」
「もののたとえよ。お米を作るには88の手間がかかるって言われていて、お米を育てるのはすごく大変なのよ。それだけ手間ひまかけて作っているんだから、一粒一粒大切に食べなさいっていうことよね。現代だといろんな仕事があるけど、昔は仕事と言えば農業だったのよね。だから、お米を大切にするってことは働いている人に感謝するっていう意味もあるのよね」
「それ、ぼくも最近考えるようになったんです」
そう言いながら、優斗が指でめがねを押しあげた。まじめな話を始めるときの優斗のクセだ。
「この前、焼肉の食べ放題に行ったときに、先生が言ってましたよね。すべてのものはお金でできているんじゃないって。自然のなかにあるものと、みんなが働くことによって作り出されているって。そう考えると、お金のことだけ考えていてもダメで、もっと世のなかのことを考えなきゃいけないなって思いました」
長谷川先生は優斗の話をずっとうなずきながら聞いている。優斗は続けた。
「お金とかそういう話じゃなくて、ムダづかいしちゃいけないって思うんです。投資部の活動でも感じるんですけど、材料で使っている板ってムダづかいできないんですよね。タダで手に入れた板なんだけど、製材所の人たちが作ってくれているのを見ているし、自分たちも丸太運びを手伝ったりしたので、すごい貴重なんですよ。これって、自分が見えていないだけで、世の中のものすべてにいろんな人がかかわっていて同じように貴重なんだなって、気づいたんです」
「梶くん、すごーーい。成長したわね」
長谷川先生は思わず拍手していた。メンチカツを食べていたときよりもうれしそうな顔をしている。
「本当に、梶くんの言う通りで、私たちがムダづかいしているものってお金じゃないのよね」
先生は、"もったいないの正体"について話し始めた。
「もったいない」という言葉は、「MOTTAINAI」とアルファベットでも表記される。ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが来日した際に感銘を受けて、世界に「MOTTAINAI」を広めたそうだ。日本語の「もったいない」と同じ意味合いの言葉は外国語には無いと言われている。日本語の「もったいない」には、少なくとも3つの意味が含まれている。一つ目は、「お金がもったいない」を意味するeconomical。二つ目は「自然資源がもったいない」を意味するecological。そして、三つ目が、先ほどの米粒の話のように、働く人たちの労力、つまり「労働がもったいない」という意味だ。 ところが、現在の日本、特に都市部では、お金や自然資源についてはもったいないと感じることはあっても、労働についてはもったいないと感じる機会が減っている。お金を支払うだけでモノやサービスが手に入るので、働く人たちの存在が見えにくくなっているからだ。
もったいないと感じれば、だれもが節約しようと思うだろう。事実、お金や自然資源については節約しようと思う人はたくさんいる。
「お金がもったいない」
「水がもったいない」
だけど、労働については節約しようという発想が起きないので、知らない間にムダづかいされてしまいがちだ。
「その話を聞いて、私のモヤモヤが解けました」
今度はアカリが話し始める。
「最近、ママがインターネットで買い物することが増えたんですよね。だけど、家にだれもいないときに宅配便の人が届けに来ると、再配達の伝票が入ってるんです。その伝票を見たママが『午前中に荷物届くの忘れて外出しちゃったわ。だけど、タダで再配達してくれるからいいわよね』って言うんです。たしかにタダなんだけど、本当にそれでいいのかなって思ってたんです。先生が話してくれたみたいに、お金はムダづかいしていないけど、宅配する人をムダに働かせてしまっているってことですよね」
「悠木さんがそういうことにモヤモヤを感じるのはすごく大事なことよ。おとなはつい自分のことだけを考えがちなのよね。でも、私たちはみんなで支え合って暮らしているから、おたがいのムダな仕事を減らすことって大事よね。150年くらい前まで、お米を作ることで精一杯だったのに、今ではさまざまなものを作って利用しているのは、労働を効率よく使えるようになったからとも言えるわよね」 先生が話し終えると、まんぷく食堂のおかみさんが、デザートを運んできてくれた。
「自家製のアップルパイよ」
ミックスフライ定食を食べた後のアップルパイは、アカリのお腹には重たかった。一口だけ食べて、残りは持ち帰って夜食にした。
「ミライ中学 投資部!」第7話 どうだったかな? 日本が発信した「MOTTAINAI」には3種類あるんだね。そこで「みんなのクチコミ」では「それ、もったいなくね? と感じた瞬間」を募集中! きみがもったいないを感じた瞬間を送ってね!
アジフライを口にした悠木アカリから笑顔がもれる。
「メンチカツもおいしいわよ。梶くんの近所にこんなおいしいお店があったのね」
しょう油派の長谷川先生はメンチカツにしょう油をかけて食べている。
「でしょでしょ!ここのミックスフライ定食は絶品なんですよ」
梶優斗の案内で、3人は梶家行きつけのまんぷく食堂に来ていた。投資部の活動の一環としてすすめてきた「まんぷく食堂バリアフリープロジェクト」の納品にやってきたのだった。
昔ながらの食堂の入り口には少し段差があって、ベビーカーや車いすだと入りづらい。そこに設置するスロープがようやく完成したのだ。設置が終わって、食堂のおかみさんが3人にごちそうしてくれたのだった。
3人はあっというまにミックスフライ定食を完食した。
「3人とも食べっぷりがいいから、おばさんも作りがいがあってうれしいわ」
おかみさんがカウンターごしに話しかけてきた。まだ6時前ということもあって、店内にはほかにお客さんはいなかった。
「だけど、最近は食べ残す人が多いのよね。おかわりしたご飯を残されると、もったいなくて残念な気持ちになるわ。おかわりの代金をもらっているから文句は言えないんだけど」
そういうとおかみさんは店の奥へと戻っていった。
「お米一粒には7人の神様が宿っているって言うわよね」
という長谷川先生のつぶやきに、アカリがツッコミを入れる。
「そんなに神様いませんよー。おちゃわん一杯に何千人もの神様が必要になっちゃいますよ」
「もののたとえよ。お米を作るには88の手間がかかるって言われていて、お米を育てるのはすごく大変なのよ。それだけ手間ひまかけて作っているんだから、一粒一粒大切に食べなさいっていうことよね。現代だといろんな仕事があるけど、昔は仕事と言えば農業だったのよね。だから、お米を大切にするってことは働いている人に感謝するっていう意味もあるのよね」
「それ、ぼくも最近考えるようになったんです」
そう言いながら、優斗が指でめがねを押しあげた。まじめな話を始めるときの優斗のクセだ。
「この前、焼肉の食べ放題に行ったときに、先生が言ってましたよね。すべてのものはお金でできているんじゃないって。自然のなかにあるものと、みんなが働くことによって作り出されているって。そう考えると、お金のことだけ考えていてもダメで、もっと世のなかのことを考えなきゃいけないなって思いました」
長谷川先生は優斗の話をずっとうなずきながら聞いている。優斗は続けた。
「お金とかそういう話じゃなくて、ムダづかいしちゃいけないって思うんです。投資部の活動でも感じるんですけど、材料で使っている板ってムダづかいできないんですよね。タダで手に入れた板なんだけど、製材所の人たちが作ってくれているのを見ているし、自分たちも丸太運びを手伝ったりしたので、すごい貴重なんですよ。これって、自分が見えていないだけで、世の中のものすべてにいろんな人がかかわっていて同じように貴重なんだなって、気づいたんです」
「梶くん、すごーーい。成長したわね」
長谷川先生は思わず拍手していた。メンチカツを食べていたときよりもうれしそうな顔をしている。
「本当に、梶くんの言う通りで、私たちがムダづかいしているものってお金じゃないのよね」
先生は、"もったいないの正体"について話し始めた。
「もったいない」という言葉は、「MOTTAINAI」とアルファベットでも表記される。ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが来日した際に感銘を受けて、世界に「MOTTAINAI」を広めたそうだ。日本語の「もったいない」と同じ意味合いの言葉は外国語には無いと言われている。日本語の「もったいない」には、少なくとも3つの意味が含まれている。一つ目は、「お金がもったいない」を意味するeconomical。二つ目は「自然資源がもったいない」を意味するecological。そして、三つ目が、先ほどの米粒の話のように、働く人たちの労力、つまり「労働がもったいない」という意味だ。 ところが、現在の日本、特に都市部では、お金や自然資源についてはもったいないと感じることはあっても、労働についてはもったいないと感じる機会が減っている。お金を支払うだけでモノやサービスが手に入るので、働く人たちの存在が見えにくくなっているからだ。
もったいないと感じれば、だれもが節約しようと思うだろう。事実、お金や自然資源については節約しようと思う人はたくさんいる。
「お金がもったいない」
「水がもったいない」
だけど、労働については節約しようという発想が起きないので、知らない間にムダづかいされてしまいがちだ。
「その話を聞いて、私のモヤモヤが解けました」
今度はアカリが話し始める。
「最近、ママがインターネットで買い物することが増えたんですよね。だけど、家にだれもいないときに宅配便の人が届けに来ると、再配達の伝票が入ってるんです。その伝票を見たママが『午前中に荷物届くの忘れて外出しちゃったわ。だけど、タダで再配達してくれるからいいわよね』って言うんです。たしかにタダなんだけど、本当にそれでいいのかなって思ってたんです。先生が話してくれたみたいに、お金はムダづかいしていないけど、宅配する人をムダに働かせてしまっているってことですよね」
「悠木さんがそういうことにモヤモヤを感じるのはすごく大事なことよ。おとなはつい自分のことだけを考えがちなのよね。でも、私たちはみんなで支え合って暮らしているから、おたがいのムダな仕事を減らすことって大事よね。150年くらい前まで、お米を作ることで精一杯だったのに、今ではさまざまなものを作って利用しているのは、労働を効率よく使えるようになったからとも言えるわよね」 先生が話し終えると、まんぷく食堂のおかみさんが、デザートを運んできてくれた。
「自家製のアップルパイよ」
ミックスフライ定食を食べた後のアップルパイは、アカリのお腹には重たかった。一口だけ食べて、残りは持ち帰って夜食にした。
マンガ イラスト©髙堀健太/コルク
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著者紹介 田内学
書籍「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)著者
国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。
2003年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
以後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に金利トレーダーとして16年間勤務。
日銀による金利指標改革にも携わる。
書籍「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)著者
国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。
2003年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
以後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に金利トレーダーとして16年間勤務。
日銀による金利指標改革にも携わる。
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