「ねえ、ママ、このカーディガンどう？」
あさみが試着室から出てくると、母はにこりと笑って
「うん、バッチグーね！」と答えた。
「バッチグー...？　なにそれ？」
「え？　知らない？　最高って意味よ！」
「初めて聞いたし、なんか...古くない？」
あさみがくすっと笑うと、母は少しムッとして
「あなたたちの言葉で言うとなんて言うの？　マジ卍とか？」
「うわ、それも古いし、全然違う！　ママ、今の子はそんなこと言わないよ」
あさみは吹き出しそうになる。
「そうなの？　流行語ってほんとすぐ変わるわね。...チョベリグとか？」
「チョ...なにそれ？　どこから持ってきたの？！」と声をあげる。
「チョーベリーグッドって意味よ。ああ、懐かしいわね。若いころ、みんなで言ってたの」
懐かしそうに目を細める。
「それ、化石だよ。言葉の化石」
「なによ。あなたの"推し活"ってのも、なんのことかさっぱりよ！」
「推し活は普通だよ！　好きなアイドルとか応援すること！　ママこそ、エモいとかも知らないんじゃない？」
「エモい？　柄本明っぽい　かな？」
「うわ、ヤバッ！　激ヤバだわ！　さっさと帰ろうよ！」