ユウジはなにげなくタカシに問いかけた。
「なあ、コイントスとか指パッチンとか、あれなにか意味あんの？」
タカシは少し笑いながら答える。
「意味？ いや、別に意味はないけどさ、できたらかっこいいだろ？」
ユウジは少し眉をひそめる。
「かっこいい...？ いや、生活に必要でもないし、実際なにも変わんないじゃん？」
「わかってないなあ」
タカシは少し身を乗り出した。
「たとえばさ、映画のワンシーンで、主人公が指パッチンってするとき、めっちゃクールじゃん？ 指一本でなにかが動く感じ、余裕たっぷりでさ」
「でもさ、現実にそんなことするやついないじゃん？ だれも振り向かないし、とくになにも起きない」
「なにも起きないけど、できるってこと自体がかっこいいんだ。コイントスだって、パッと投げて、空中でキャッチして、さっと決断する。それが重要なんだよ」
「でも、コイントスでなに決めるんだよ。昼飯をなににするか？ だったら別にくじ引きでもいいじゃん」
タカシは首を振った。
「いやいや、運命を委ねる瞬間が大事なんだよ。潔く、さっと決める。それがかっこいいんだよ」
ユウジは少し考え込みながらつぶやいた。
「ほんとにかっこいいのか？　間抜けにみえないか？」
「絶対にかっこいいって！」
ユウジはタカシの顔を見返した。
「...なあ、オレに教えてくんない？」