『田内学 連載 ミライ中学 投資部!
第3話 「投資って丸太を切り出すこと?」』
校門の門柱に寄りかかりながら、悠木アカリは不機嫌そうにつぶやいた。
「だいたい、なんでジャージ着なきゃいけないの?」
ジャージを着た投資部の1年生10人が、校門の前で長谷川先生の登場を待っていた。
「いつも以上に、体を動かせっていうことなんだろうね」
理屈っぽい梶優斗の返事が、アカリの機嫌をさらに悪くする。
「先週、先生が言っていた『調達』って、お金を集めることじゃなかったの?」
15分前。投資部の部室に入ったアカリの目に飛び込んできたのは、黒板に残されたメッセージだった。
「1年生は、午後3時にジャージ着て校門前に集合」
アカリはそのときから嫌な予感がしていた。資金調達なら、ジャージなんて着させるはずがない。あの先生のことだ。きっとなにかたくらんでいるに違いない、と。
午後3時。学校のチャイムが鳴り始めると同時に、校門前に青いトラックが止まった。なにも積まれていないトラックの荷台には、「堀内製材所」と書いてある。
助手席から出てきたのは、ジャージ姿の長谷川先生だった。
「1年生のみんな、ちゃんとそろっているわね。さあ、これから赤崎山のふもとまで移動するわよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。どうやって移動するんですか?ここから軽く5キロありますよ」と聞き返す生徒たち。
「若いんだから、走れば30分もかからないわ」
「トラックの荷台に乗せてくださいよ!」
「それは、道路交通法違反ね。さあ、走って走って!」
と言いながら、先生は両手を2、3回大きく叩いた。
「先生だけずるい!」と生徒たちから大ブーイング。
「ず、ずるくないわよ。先生は、ほら、あれよ。トラックの道案内をしなきゃいけないから」と言い訳をする先生に、運転席から追いうちがかかった。 「カーナビあるんで、こっちはだいじょうぶですよ。先生は生徒さんを引率していらっしゃってください。先に行って待ってますね」
そう言うと、トラックは走り去ってしまった。
後ろ姿を見送りながら、「嘘でしょ。。。」と先生は小さく呟いた。
はじめは、みんな黙って走っていたが、1キロを過ぎるころには、先頭を走っていた先生が脱落したので、みんな歩き始めた。
先生の横に並んでいたアカリがたずねた。
「先生、これから調達しに行くのって、お金じゃないですよね?なにを調達しに行くのか、そろそろ教えてくださいよ」
「逆に質問するわね。はあはあ。たとえば、レストランを始めるときに、資金を調達するのはどうしてかしら?はあはあ」
走り疲れた先生の息は、すっかり上がっている。
「それは、働く人を雇うためにお金がかかるからですか?」
「ほかには?はあはあ」
「それ以外にも、レストランの場所を借りる費用や、内装工事、材料を仕入れることにもお金がかかります」前を歩いていた優斗が振り返って答える。
「二人とも正解よ。じゃあ、こういう場合はどうかしら?悠木さんのお母さんが、ご自宅の庭先にテーブルを置いてレストランを始める。働くのはお母さんと悠木さん。材料は知り合いの農家に譲ってもらえるとしたら、お金はほとんどかからないわね。はあはあ」
「食器とかにお金はかかるかもしれませんが、ほとんどかかりませんよね」とアカリ。
「そうよね。じゃあ、どうしてお金が必要な場合と、必要じゃない場合があると思う?はあはあ」
「えっ、地味なレストランだとお金がかからないってこと?」アカリは首をかしげる。
「先生が言いたいのは、協力してもらう人をどうやって集めるか、ってことですか?」
再び、前を歩く優斗が答える。
「そう。協力者を集めることができれば、資金は必要なくなるの。だから、私たちが投資部では、資金を調達するかわりに、協力者を集めているのよ」
長谷川先生は、息を整えながら、「調達したお金を使うことは、協力者を増やすための一つの方法に過ぎない」という話を始めた。
塾の先生に勉強を教えてもらうためには、授業料を払わないといけない。ところが、お母さんに教えてもらうのであれば、お金を払わなくてもいい。これは、どうしてだろうか?
塾の先生はプロだから、と思う人もいるかもしれない。だけど、自分のお母さんが塾の先生をしている子どもだっている。その子どもは、やはりお金を払ったりしない。
そう考えると、よく知っている人にお願いする場合は、お金は問題にならない。
知らない人に協力をお願いする場合、お金が必要不可欠だ。
だから、新しく「事業」を始めるときには、銀行からお金を借りたりして、資金を調達する(お金を集める)のだ。そのお金を使って、いろんな人たちに協力してもらう。レストランの場所を貸してもらったり、テーブルや椅子を作ってもらったり、食材を提供してもらったり。
この投資部では、木製のスロープを色々な所に取り付けるという「事業」を始めた。もちろん、お金を集めれば、話は早い。だけど、お金を集めなくても、協力者を探せば木製のスロープを作ることができる。
投資部の部員たちも協力者の一人。給料を払わなくてもスロープを作るために働いてくれる。あとは、道具や材料を集めるだけだ。
先生や上級生たちは、いろんな工場や会社を回って、街のバリアフリー化を進めるために、ぜひ協力してほしいとお願いしてきた。
そうやって、大工道具を借りたり、釘や板などの材料を集めたりしてきた。さっきのトラックの「堀内製材所」も、スロープの材料になる板などの木材を提供してくれる会社だ。
お金を調達する代わりに、投資部の目的を説明しながら協力者を増やしてきたのだ。
アカリちゃんは少し納得いかないようだった。
「スロープを作るために協力をお願いして、ただで働いてもらうってことですよね。だけど、堀内製材所の人たちも、木の板を作るための材料を買うお金が必要ですよね?投資部にお金が無いから、彼らにお金を払ってもらっているだけじゃないですか?」
少し先に、さっきの青いトラックが見えてきた。もうゴールは近いようだ。
「すごくいい質問ね。だけど、お金は必要ないの。お金を集める代わりに必要なのは、なんだったかしら?」
先生の質問に答えたのは、優斗くんだった。
「協力者、ってことですか?」
「そう。この山の木を切り出している会社にも、協力をお願いしたの。街のためになるなら、何本でも持っていってください、って言ってくれたわ」
ゴール地点には、大量の丸太が積まれていた。この丸太を堀内製材所の人たちが加工して、スロープに必要な木材を作ってくれるらしい。
「これ、私たちが、トラックに積み込むんですか?」としゃがみ込むアカリ。
「そうよー」
「一本、150キロはあるかな。10人で運べば、1人15キロ。可能だな」優斗は冷静に計算している。
「せんせーい、丸太を運ぶ協力者も集めて欲しかったですーー」
アカリの悲しげな声が、山の中に響き渡っていた。
「だいたい、なんでジャージ着なきゃいけないの?」
ジャージを着た投資部の1年生10人が、校門の前で長谷川先生の登場を待っていた。
「いつも以上に、体を動かせっていうことなんだろうね」
理屈っぽい梶優斗の返事が、アカリの機嫌をさらに悪くする。
「先週、先生が言っていた『調達』って、お金を集めることじゃなかったの?」
15分前。投資部の部室に入ったアカリの目に飛び込んできたのは、黒板に残されたメッセージだった。
「1年生は、午後3時にジャージ着て校門前に集合」
アカリはそのときから嫌な予感がしていた。資金調達なら、ジャージなんて着させるはずがない。あの先生のことだ。きっとなにかたくらんでいるに違いない、と。
午後3時。学校のチャイムが鳴り始めると同時に、校門前に青いトラックが止まった。なにも積まれていないトラックの荷台には、「堀内製材所」と書いてある。
助手席から出てきたのは、ジャージ姿の長谷川先生だった。
「1年生のみんな、ちゃんとそろっているわね。さあ、これから赤崎山のふもとまで移動するわよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。どうやって移動するんですか?ここから軽く5キロありますよ」と聞き返す生徒たち。
「若いんだから、走れば30分もかからないわ」
「トラックの荷台に乗せてくださいよ!」
「それは、道路交通法違反ね。さあ、走って走って!」
と言いながら、先生は両手を2、3回大きく叩いた。
「先生だけずるい!」と生徒たちから大ブーイング。
「ず、ずるくないわよ。先生は、ほら、あれよ。トラックの道案内をしなきゃいけないから」と言い訳をする先生に、運転席から追いうちがかかった。 「カーナビあるんで、こっちはだいじょうぶですよ。先生は生徒さんを引率していらっしゃってください。先に行って待ってますね」
そう言うと、トラックは走り去ってしまった。
後ろ姿を見送りながら、「嘘でしょ。。。」と先生は小さく呟いた。
はじめは、みんな黙って走っていたが、1キロを過ぎるころには、先頭を走っていた先生が脱落したので、みんな歩き始めた。
先生の横に並んでいたアカリがたずねた。
「先生、これから調達しに行くのって、お金じゃないですよね?なにを調達しに行くのか、そろそろ教えてくださいよ」
「逆に質問するわね。はあはあ。たとえば、レストランを始めるときに、資金を調達するのはどうしてかしら?はあはあ」
走り疲れた先生の息は、すっかり上がっている。
「それは、働く人を雇うためにお金がかかるからですか?」
「ほかには?はあはあ」
「それ以外にも、レストランの場所を借りる費用や、内装工事、材料を仕入れることにもお金がかかります」前を歩いていた優斗が振り返って答える。
「二人とも正解よ。じゃあ、こういう場合はどうかしら?悠木さんのお母さんが、ご自宅の庭先にテーブルを置いてレストランを始める。働くのはお母さんと悠木さん。材料は知り合いの農家に譲ってもらえるとしたら、お金はほとんどかからないわね。はあはあ」
「食器とかにお金はかかるかもしれませんが、ほとんどかかりませんよね」とアカリ。
「そうよね。じゃあ、どうしてお金が必要な場合と、必要じゃない場合があると思う?はあはあ」
「えっ、地味なレストランだとお金がかからないってこと?」アカリは首をかしげる。
「先生が言いたいのは、協力してもらう人をどうやって集めるか、ってことですか?」
再び、前を歩く優斗が答える。
「そう。協力者を集めることができれば、資金は必要なくなるの。だから、私たちが投資部では、資金を調達するかわりに、協力者を集めているのよ」
長谷川先生は、息を整えながら、「調達したお金を使うことは、協力者を増やすための一つの方法に過ぎない」という話を始めた。
塾の先生に勉強を教えてもらうためには、授業料を払わないといけない。ところが、お母さんに教えてもらうのであれば、お金を払わなくてもいい。これは、どうしてだろうか?
塾の先生はプロだから、と思う人もいるかもしれない。だけど、自分のお母さんが塾の先生をしている子どもだっている。その子どもは、やはりお金を払ったりしない。
そう考えると、よく知っている人にお願いする場合は、お金は問題にならない。
知らない人に協力をお願いする場合、お金が必要不可欠だ。
だから、新しく「事業」を始めるときには、銀行からお金を借りたりして、資金を調達する(お金を集める)のだ。そのお金を使って、いろんな人たちに協力してもらう。レストランの場所を貸してもらったり、テーブルや椅子を作ってもらったり、食材を提供してもらったり。
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先生はいろいろな人にいろいろなことをお願いしているんだね。
会員専用サービス「みんなのクチコミ」では
「たのみごとをするとき、キミの必殺のくどき文句」を募集しているよ!
キミの意見を聞かせてね!
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アカリちゃんは少し納得いかないようだった。
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少し先に、さっきの青いトラックが見えてきた。もうゴールは近いようだ。
「すごくいい質問ね。だけど、お金は必要ないの。お金を集める代わりに必要なのは、なんだったかしら?」
先生の質問に答えたのは、優斗くんだった。
「協力者、ってことですか?」
「そう。この山の木を切り出している会社にも、協力をお願いしたの。街のためになるなら、何本でも持っていってください、って言ってくれたわ」
ゴール地点には、大量の丸太が積まれていた。この丸太を堀内製材所の人たちが加工して、スロープに必要な木材を作ってくれるらしい。
「これ、私たちが、トラックに積み込むんですか?」としゃがみ込むアカリ。
「そうよー」
「一本、150キロはあるかな。10人で運べば、1人15キロ。可能だな」優斗は冷静に計算している。
「せんせーい、丸太を運ぶ協力者も集めて欲しかったですーー」
アカリの悲しげな声が、山の中に響き渡っていた。
マンガ イラスト©髙堀健太/コルク
著者紹介 田内学
書籍「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)著者
国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。
2003年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
以後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に金利トレーダーとして16年間勤務。
日銀による金利指標改革にも携わる。
書籍「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)著者
国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。
2003年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。
以後、ゴールドマン・サックス証券株式会社に金利トレーダーとして16年間勤務。
日銀による金利指標改革にも携わる。
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