『鳥飼否宇「生徒会書記はときどき饒舌」
第10話 あるアライグマの死(後編)』
「オール電化の佐野くんの家は、停電のときなど大変でしょうね」
浜松大雅が水を向けると、佐野悠馬は首をかしげた。
「どうなんだろう。キッチンが使えなくなるのは困るけど、そんなときはソーラーパネルの発電で少しはまかなえるはず。あと、EVが家にあったら、自動車に蓄えた電気を家庭用に使うこともできるらしい。やったことはないけど」
「へえ、すごいな」北原翔が感心した。「太陽光発電って、再生可能エネルギーってやつだろ? それってエコにも貢献してるんじゃない?」
「いや、それほどでも......」悠馬が照れる。
「ところで、再生可能エネルギーってなんだっけ?」
翔がまじめな顔で質問したので、一同ズッコケそうになった。大雅がせき払いをして答える。
「石油、石炭、天然ガス......これらの化石燃料を燃やして発電するのが火力発電です。化石燃料は有限ですし、燃やしたときに温室効果ガスの二酸化炭素も排出します。いつまでも火力発電に頼っていては地球のためによくないでしょう。再生可能エネルギーというのは、太陽や水、風、バイオマス、地熱など自然界に無限にある自然エネルギーのこと。近年はこれらの地球にやさしいエネルギーを用いて発電しようという動きになっています」
「水力発電というのは昔からあったよね」
さくらの質問に、大雅は大きくうなずいてから説明を加えた。
「そうそう。ダムなどの高いところから水を落としたりして、水圧でタービンを回して発電するやり方です。山が多く、水が豊富な日本では昔からやられてました。でもダムは作るのにものすごい費用がかかるし、もうさんざんできているから、今後も水力で発電量を増やすのは難しい。それで近年伸びているのが太陽光発電。ついに水力の発電量を超えました」
参考:環境NPO法人 環境エネルギー政策研究所「2020年の自然エネルギー電力の割合(暦年速報)」
じっと中学生たちの話に耳を傾けていた星野達男が口をはさんだ。
「再生可能エネルギーそのものは地球のために悪くないはずだが、太陽光発電の施設には問題もあると思うな」
「どういうことですか?」岡村さくらが質問した。
「日本には開けた場所が少ないから、大規模な太陽光発電施設を作ろうと思うと、山を切り開いて更地にして、そこにソーラーパネルを並べることが多い。二酸化炭素を吸収してくれる森を切ることで、結果的に温室効果ガスは増えることになるだろう。生態系も壊されるし、土砂崩れなどの可能性も増えてしまう。再生可能エネルギーの目的の一つが温室効果ガスの削減なら、大規模な太陽光発電施設はそれに反することになるな。佐野くんの家の屋根に設置するくらいなら別に問題もないだろうがな」
「そうなんですね」
達男が続けた。
「ソーラーパネルの寿命は2、30年とされている。現在日本各地で拡大している太陽光発電だけど、2、30年後には大量のごみになってしまうわけだ。その処分の費用や買い替える費用を準備していない事業者がいれば、発電はそこでストップしてしまうかもしれない。そればかりかソーラーパネルがそのまま野ざらしに廃棄される可能性だってある。考えすぎかもしれないけどな」
「太陽光発電にも課題がたくさんあるんですね。風力発電はどうなんですか?」
さくらが遠くの山の尾根を見ながら聞いた。
何年か前からそこに風力発電用の巨大風車が建設されているのだった。
「風力発電も山を切り開いて作ったら、太陽光発電の施設と同じ問題があるんじゃないかな。生態系に配慮して場所を選べばまだいいんだろうが、必ずしもそうなっていない。だから、世界中でワシやタカなどの希少な鳥たちが風車にぶつかって死んでしまったしていて、国際的な問題になっているらしい。さらに風力は発電量が安定しないという問題があるな。大きな風車を作るのには当然多くの費用がかかるわけだけど、せっかく作っても安定して風が吹いてくれないと発電できないからね」
参考:久保田康裕(株式会社シンク・ネイチャー)「風力発電施設の立地適性度」「生物多様性保全優先度スコア」
「いいこと思いついた!」翔が声をあげた。「台風みたいなすごい風が吹くときに一気にたくさん発電して、ためておいたらいいんじゃないですか」
「たしかにそんなことができたらいいのかもしれないが、風が強すぎるときは風車はたたむことになっているんだ。台風をまともに受けて安全に運転できる風車なんて、現代の技術ではまだできっこないからな。実際に強い台風で、風力発電用の風車が倒れた例がある」
「これですね」
大雅がすばやくスマホで検索して、倒れた風車の写真を表示した。
いつもはタブレット端末を持っているが、田植えの今日はさすがにじゃまになると考えたのだろう。
「ありゃあ、こりゃだめだ」
「再生可能エネルギーも難しいんですね」さくらがうで組みをした。
「バイオマス発電ってのもあったよね?」質問したのは悠馬だった。
大雅がすぐに検索した。
「おもに植物からできた生物資源を燃焼させて発電するやり方ですね。バイオマスにはいろいろあって、丸太や樹皮なんかを細かく砕いて、固めたものを使うことが多いようです。燃料用に栽培されるさとうきびやトウモロコシもあるし、わらとかもみがらとかおがくずとかもバイオマスみたいです」
「昔は山から木を切ってきて、薪(まき)にしたり炭にしたりしてエネルギーにしていたわけだから、バイオマス発電は昔の生活スタイルに戻っているというふうに考えられなくもないな」
達男の言葉に、一同がうなずく。さくらが手をあげて、疑問を口にした。
「でもちょっと待って。植物から作ったバイオマスを燃やしたら、石油や石炭と同じように、二酸化炭素が出るんじゃないの? それでいいのかしら?」
大雅がすぐに検索して答えた。
「植物は生きているときに二酸化炭素を吸収しているので、死んでから燃やしたときに二酸化炭素が出ても、プラマイゼロって考えるらしいです。ちょっと都合がいい考え方のように思いますけど」
大雅の説明を受けて、達男が補足した。
「昔は人が使うエネルギーも少なかったから、薪や炭を使っても大した影響はなかったんだろうが、産業が発達して人間が生活するためにばく大なエネルギーが必要になった。バイオマスをエネルギー源にするために、新たに山を伐採(ばっさい)したりしていては、さっき太陽光エネルギーのところでも言ったけど、本末転倒じゃないかな」
「結局、再生可能エネルギーも決していいことばかりではないということでしょうか?」
さくらが不安そうな顔になる。
「電力確保の優先にかたよるのではなく、自然のことも考えながら開発するということだろう。どっちか一方ということではなく、どちらもだいじにする考えかたが必要かな」
心美が大きな目を見開いてうなずいた。
「できるかぎり節電して、電気をむだ使いしない生活をすることがいいのかもしれませんね。そのほうが家計にもやさしいですし」
「なんだよそれ。電気に頼り切っているうちに対する当てつけか?」
悠馬がおどけると、みんなが笑った。
「そんなことはありません」心美もにっこりほほえんだが、次の瞬間、突然真剣な顔になった。「ちょっと待ってください。停電じゃないのではないでしょうか?」
「は、なんのこと?」
「佐野くんの家のいろんな電化製品が使えなかった原因です。星野くんの家も夜中に停電したんですよね。それでもすぐに復旧した。ところが佐野くんの家は復旧しなかった。それはどうしてでしょう?」
大雅が眼鏡(めがね)に手をそえた。
「それは佐野くんちのブレーカーが落ちたからじゃないでしょうか。彼自身も言ってるように、佐野家では普通の家庭よりも電気に頼った生活をしている。だから停電が起こったときにブレーカーが落ちてしまったんじゃないのかなあ」
「停電ではブレーカーは落ちないと思います」心美が反論した。「でも別の原因で落ちた可能性があります。佐野くんの家にはソーラーパネルがあって、少しの停電くらいなら、対応できるはずなんですよね。それなのに朝になるまでまったく電気が使えなかった。その原因は停電ではなく、漏電(ろうでん)ではないでしょうか」
「漏電? 停電とどう違うんだっけ?」
「漏電は電気が外に漏れている状態です。昨夜は雷もすごかったですが、雨も激しく降っていました。その雨で電気の配線が濡れたとしたら、雨水を伝って電気が漏れた可能性があります。うちの家、築50年のボロ家なので、壁にひびが入っていたらしく、あるときそこから雨水が流れ込んで、漏電したことがあるんです」
心美が恥ずかしそうに経験談を語ったが、悠馬は戸惑っていた。
「うちは建ててからまだ3年。そこまで老朽化していないと思うけどなあ」
「ですよね。うちと同じみたいに言って、ごめんなさい。でも、漏電の可能性は捨てきれません。もしかしたら、電気自動車の充電設備が原因かもしれません。よく知りませんが、その設備は家の中ではなく、外にあるんですよね?」
「ああ、充電用コードは外にあるけど」
「だったら、そこから漏電している可能性があります」
「いや、安全面はちゃんと考えられているはずだけど......」悠馬が首をひねった。「でももし、漏電だったとして、どうしたらいいの。帰ってからブレーカーをあげればいいんじゃないの?」
「ダメです!」心美が勢いよく首を横に振ったので、大きめの眼鏡が揺れた。「うちで漏電したとき、専門家の人が来て、言っていました。漏電していることを知らずに電気製品などを触ったら感電する可能性もあるし、可燃物に引火して火事が起こることもあるって。漏電は人命にかかわるので、適切に対応する必要があるって!」
「ヤバッ!」悠馬の顔が一瞬にして青ざめた。「ここでのんびり田植えの撮影なんかしている場合じゃないや。心配だから家に帰って確かめてくる!」
そう言い残し、悠馬は電動アシストのない自転車を懸命(けんめい)にこいで帰っていった。
悠馬以外のメンバーが田植えを再開しておよそ1時間後、翔のスマホが鳴った。
「どうしたんだ? えっ......よかったな......わかった、じゃあな」
電話を切った翔がみんなに聞こえるように言った。
「悠馬からの電話だった。大場さんが推理したように電気自動車の充電用コードから漏電してたって。アライグマがケーブルをかじったのが原因だったそうだ。漏電のせいでアライグマは感電死してしまったけど、専門家を呼んで対応してもらったからもうだいじょうぶみたい。大場さんにはくれぐれもよろしく伝えておいてってさ」
心美はトマトのように顔を真っ赤にし、うつむいてしまった。
浜松大雅が水を向けると、佐野悠馬は首をかしげた。
「どうなんだろう。キッチンが使えなくなるのは困るけど、そんなときはソーラーパネルの発電で少しはまかなえるはず。あと、EVが家にあったら、自動車に蓄えた電気を家庭用に使うこともできるらしい。やったことはないけど」
「へえ、すごいな」北原翔が感心した。「太陽光発電って、再生可能エネルギーってやつだろ? それってエコにも貢献してるんじゃない?」
「いや、それほどでも......」悠馬が照れる。
「ところで、再生可能エネルギーってなんだっけ?」
翔がまじめな顔で質問したので、一同ズッコケそうになった。大雅がせき払いをして答える。
「石油、石炭、天然ガス......これらの化石燃料を燃やして発電するのが火力発電です。化石燃料は有限ですし、燃やしたときに温室効果ガスの二酸化炭素も排出します。いつまでも火力発電に頼っていては地球のためによくないでしょう。再生可能エネルギーというのは、太陽や水、風、バイオマス、地熱など自然界に無限にある自然エネルギーのこと。近年はこれらの地球にやさしいエネルギーを用いて発電しようという動きになっています」
「水力発電というのは昔からあったよね」
さくらの質問に、大雅は大きくうなずいてから説明を加えた。
「そうそう。ダムなどの高いところから水を落としたりして、水圧でタービンを回して発電するやり方です。山が多く、水が豊富な日本では昔からやられてました。でもダムは作るのにものすごい費用がかかるし、もうさんざんできているから、今後も水力で発電量を増やすのは難しい。それで近年伸びているのが太陽光発電。ついに水力の発電量を超えました」
参考:環境NPO法人 環境エネルギー政策研究所「2020年の自然エネルギー電力の割合(暦年速報)」
じっと中学生たちの話に耳を傾けていた星野達男が口をはさんだ。
「再生可能エネルギーそのものは地球のために悪くないはずだが、太陽光発電の施設には問題もあると思うな」
「どういうことですか?」岡村さくらが質問した。
「日本には開けた場所が少ないから、大規模な太陽光発電施設を作ろうと思うと、山を切り開いて更地にして、そこにソーラーパネルを並べることが多い。二酸化炭素を吸収してくれる森を切ることで、結果的に温室効果ガスは増えることになるだろう。生態系も壊されるし、土砂崩れなどの可能性も増えてしまう。再生可能エネルギーの目的の一つが温室効果ガスの削減なら、大規模な太陽光発電施設はそれに反することになるな。佐野くんの家の屋根に設置するくらいなら別に問題もないだろうがな」
「そうなんですね」
達男が続けた。
「ソーラーパネルの寿命は2、30年とされている。現在日本各地で拡大している太陽光発電だけど、2、30年後には大量のごみになってしまうわけだ。その処分の費用や買い替える費用を準備していない事業者がいれば、発電はそこでストップしてしまうかもしれない。そればかりかソーラーパネルがそのまま野ざらしに廃棄される可能性だってある。考えすぎかもしれないけどな」
「太陽光発電にも課題がたくさんあるんですね。風力発電はどうなんですか?」
さくらが遠くの山の尾根を見ながら聞いた。
何年か前からそこに風力発電用の巨大風車が建設されているのだった。
「風力発電も山を切り開いて作ったら、太陽光発電の施設と同じ問題があるんじゃないかな。生態系に配慮して場所を選べばまだいいんだろうが、必ずしもそうなっていない。だから、世界中でワシやタカなどの希少な鳥たちが風車にぶつかって死んでしまったしていて、国際的な問題になっているらしい。さらに風力は発電量が安定しないという問題があるな。大きな風車を作るのには当然多くの費用がかかるわけだけど、せっかく作っても安定して風が吹いてくれないと発電できないからね」
参考:久保田康裕(株式会社シンク・ネイチャー)「風力発電施設の立地適性度」「生物多様性保全優先度スコア」
「いいこと思いついた!」翔が声をあげた。「台風みたいなすごい風が吹くときに一気にたくさん発電して、ためておいたらいいんじゃないですか」
「たしかにそんなことができたらいいのかもしれないが、風が強すぎるときは風車はたたむことになっているんだ。台風をまともに受けて安全に運転できる風車なんて、現代の技術ではまだできっこないからな。実際に強い台風で、風力発電用の風車が倒れた例がある」
「これですね」
大雅がすばやくスマホで検索して、倒れた風車の写真を表示した。
いつもはタブレット端末を持っているが、田植えの今日はさすがにじゃまになると考えたのだろう。
「ありゃあ、こりゃだめだ」
「再生可能エネルギーも難しいんですね」さくらがうで組みをした。
「バイオマス発電ってのもあったよね?」質問したのは悠馬だった。
大雅がすぐに検索した。
「おもに植物からできた生物資源を燃焼させて発電するやり方ですね。バイオマスにはいろいろあって、丸太や樹皮なんかを細かく砕いて、固めたものを使うことが多いようです。燃料用に栽培されるさとうきびやトウモロコシもあるし、わらとかもみがらとかおがくずとかもバイオマスみたいです」
「昔は山から木を切ってきて、薪(まき)にしたり炭にしたりしてエネルギーにしていたわけだから、バイオマス発電は昔の生活スタイルに戻っているというふうに考えられなくもないな」
達男の言葉に、一同がうなずく。さくらが手をあげて、疑問を口にした。
「でもちょっと待って。植物から作ったバイオマスを燃やしたら、石油や石炭と同じように、二酸化炭素が出るんじゃないの? それでいいのかしら?」
大雅がすぐに検索して答えた。
「植物は生きているときに二酸化炭素を吸収しているので、死んでから燃やしたときに二酸化炭素が出ても、プラマイゼロって考えるらしいです。ちょっと都合がいい考え方のように思いますけど」
大雅の説明を受けて、達男が補足した。
「昔は人が使うエネルギーも少なかったから、薪や炭を使っても大した影響はなかったんだろうが、産業が発達して人間が生活するためにばく大なエネルギーが必要になった。バイオマスをエネルギー源にするために、新たに山を伐採(ばっさい)したりしていては、さっき太陽光エネルギーのところでも言ったけど、本末転倒じゃないかな」
「結局、再生可能エネルギーも決していいことばかりではないということでしょうか?」
さくらが不安そうな顔になる。
「電力確保の優先にかたよるのではなく、自然のことも考えながら開発するということだろう。どっちか一方ということではなく、どちらもだいじにする考えかたが必要かな」
心美が大きな目を見開いてうなずいた。
「できるかぎり節電して、電気をむだ使いしない生活をすることがいいのかもしれませんね。そのほうが家計にもやさしいですし」
「なんだよそれ。電気に頼り切っているうちに対する当てつけか?」
悠馬がおどけると、みんなが笑った。
「そんなことはありません」心美もにっこりほほえんだが、次の瞬間、突然真剣な顔になった。「ちょっと待ってください。停電じゃないのではないでしょうか?」
「は、なんのこと?」
「佐野くんの家のいろんな電化製品が使えなかった原因です。星野くんの家も夜中に停電したんですよね。それでもすぐに復旧した。ところが佐野くんの家は復旧しなかった。それはどうしてでしょう?」
大雅が眼鏡(めがね)に手をそえた。
「それは佐野くんちのブレーカーが落ちたからじゃないでしょうか。彼自身も言ってるように、佐野家では普通の家庭よりも電気に頼った生活をしている。だから停電が起こったときにブレーカーが落ちてしまったんじゃないのかなあ」
「停電ではブレーカーは落ちないと思います」心美が反論した。「でも別の原因で落ちた可能性があります。佐野くんの家にはソーラーパネルがあって、少しの停電くらいなら、対応できるはずなんですよね。それなのに朝になるまでまったく電気が使えなかった。その原因は停電ではなく、漏電(ろうでん)ではないでしょうか」
「漏電? 停電とどう違うんだっけ?」
「漏電は電気が外に漏れている状態です。昨夜は雷もすごかったですが、雨も激しく降っていました。その雨で電気の配線が濡れたとしたら、雨水を伝って電気が漏れた可能性があります。うちの家、築50年のボロ家なので、壁にひびが入っていたらしく、あるときそこから雨水が流れ込んで、漏電したことがあるんです」
心美が恥ずかしそうに経験談を語ったが、悠馬は戸惑っていた。
「うちは建ててからまだ3年。そこまで老朽化していないと思うけどなあ」
「ですよね。うちと同じみたいに言って、ごめんなさい。でも、漏電の可能性は捨てきれません。もしかしたら、電気自動車の充電設備が原因かもしれません。よく知りませんが、その設備は家の中ではなく、外にあるんですよね?」
「ああ、充電用コードは外にあるけど」
「だったら、そこから漏電している可能性があります」
「いや、安全面はちゃんと考えられているはずだけど......」悠馬が首をひねった。「でももし、漏電だったとして、どうしたらいいの。帰ってからブレーカーをあげればいいんじゃないの?」
「ダメです!」心美が勢いよく首を横に振ったので、大きめの眼鏡が揺れた。「うちで漏電したとき、専門家の人が来て、言っていました。漏電していることを知らずに電気製品などを触ったら感電する可能性もあるし、可燃物に引火して火事が起こることもあるって。漏電は人命にかかわるので、適切に対応する必要があるって!」
「ヤバッ!」悠馬の顔が一瞬にして青ざめた。「ここでのんびり田植えの撮影なんかしている場合じゃないや。心配だから家に帰って確かめてくる!」
そう言い残し、悠馬は電動アシストのない自転車を懸命(けんめい)にこいで帰っていった。
悠馬以外のメンバーが田植えを再開しておよそ1時間後、翔のスマホが鳴った。
「どうしたんだ? えっ......よかったな......わかった、じゃあな」
電話を切った翔がみんなに聞こえるように言った。
「悠馬からの電話だった。大場さんが推理したように電気自動車の充電用コードから漏電してたって。アライグマがケーブルをかじったのが原因だったそうだ。漏電のせいでアライグマは感電死してしまったけど、専門家を呼んで対応してもらったからもうだいじょうぶみたい。大場さんにはくれぐれもよろしく伝えておいてってさ」
心美はトマトのように顔を真っ赤にし、うつむいてしまった。
マンガ イラスト©中山ゆき/コルク
■著者紹介■
鳥飼 否宇(とりかい ひう)
福岡県生まれ。九州大学理学部生物学科卒業。編集者を経て、ミステリー作家に。2000年4月から奄美大島に在住。特定非営利活動法人奄美野鳥の会副会長。
2001年 - 『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞。
2007年 - 『樹霊』で第7回本格ミステリ大賞候補。
2009年 - 『官能的』で第2回世界バカミス☆アワード受賞。
2009年 - 『官能的』で第62回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補。
2011年 - 「天の狗」(『物の怪』に収録)で第64日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
2016年 - 『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
■監修■
株式会社シンク・ネイチャー
代表 久保田康裕(株式会社シンクネイチャー代表・琉球大学理学部教授)
熊本県生まれ。北海道大学農学部卒業。世界中の森林生態系を巡る長期フィールドワークと、ビッグデータやAIを活用したデータサイエンスを統合し、生物多様性の保全科学を推進する。
2014年 日本生態学会大島賞受賞、2019年 The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Award受賞。日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)やネイチャーリスク・アラート(https://thinknature-japan.com/habitat-alert)をリリースし反響を呼ぶ。
さらに、進化生態学研究者チームで株式会社シンクネイチャーを起業し、未来社会のネイチャートランスフォーメーションをゴールにしたNafureX構想を打ち立てている。
鳥飼 否宇(とりかい ひう)
福岡県生まれ。九州大学理学部生物学科卒業。編集者を経て、ミステリー作家に。2000年4月から奄美大島に在住。特定非営利活動法人奄美野鳥の会副会長。
2001年 - 『中空』で第21回横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞。
2007年 - 『樹霊』で第7回本格ミステリ大賞候補。
2009年 - 『官能的』で第2回世界バカミス☆アワード受賞。
2009年 - 『官能的』で第62回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補。
2011年 - 「天の狗」(『物の怪』に収録)で第64日本推理作家協会賞(短編部門)候補。
2016年 - 『死と砂時計』で第16回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞。
■監修■
株式会社シンク・ネイチャー
代表 久保田康裕(株式会社シンクネイチャー代表・琉球大学理学部教授)
熊本県生まれ。北海道大学農学部卒業。世界中の森林生態系を巡る長期フィールドワークと、ビッグデータやAIを活用したデータサイエンスを統合し、生物多様性の保全科学を推進する。
2014年 日本生態学会大島賞受賞、2019年 The International Association for Vegetation Science (IAVS) Editors Award受賞。日本の生物多様性地図化プロジェクト(J-BMP)(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)やネイチャーリスク・アラート(https://thinknature-japan.com/habitat-alert)をリリースし反響を呼ぶ。
さらに、進化生態学研究者チームで株式会社シンクネイチャーを起業し、未来社会のネイチャートランスフォーメーションをゴールにしたNafureX構想を打ち立てている。
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